『遺族』

和美は本当によくできた妻だった。
そして萌と静香も、実に素直ないい娘に育ってくれて、私は本当に幸せだった。


なのに。

ある日そのすべてが奪われた。


私が深夜残業から帰ってくると、ダイニングテーブルの上に、私の家族の首が整然と並べられていた。

しかも、愛犬のラルフの首までも。

あまりに突然の悲劇に私は腰を抜かし、ただただ叫び続けるよりほかなかった。


あれから常に考えるのは、何故犯人はこのような惨劇を実行したのだろうか、ということだ。

ここまでするということは、私に対して相当な恨みを持っていたということに相違ない。

しかし自慢じゃないが、私は今まで生きてきた中で、そこまでの恨みを誰かから買った覚えなどないのだ。

そういう風に生きてきた。
ただ家族との幸せを守る為、波風立てず生きてきたのだ。


なのに。なのに。惨劇は起こった。


今でもあの時の光景が蘇り、叫びたい衝動を抑えることができない。

ああ、ああ。助けてくれ。


犯人は何がしたかった?
私に何を伝えたかったのだ?
そう考えるたびに不条理が私を苛む。


私は答えが知りたい。
彼の意図を知りたい。
そうでなければ、私はいつか気がふれてしまうだろう。


「ピンポーン」


呼び鈴がなった。
私はインターフォンを取る。

「夜分にすいません。鈴木次郎様宛てに宅急便で~す。」

若々しいハキハキとした声でそう聞こえた。

誰からだろうか?
和美の母からか?

などと思いつつ私は玄関に向かった。
『事件より一週後の週刊誌の記事より抜粋』

―まずは、不幸にも偶然が重なり、犠牲となった彼らに心からのご冥福をお祈りしたい。

しかし、あまりに恐ろしい事件だった。

殺害方法もさることながら、驚くべきは犯人がそこに添えたメッセージだ。

事件以降、ネット等で盛んに議論が続けられていたが、それが明確になった当初、多くの人は皆そのメッセージに首を傾げた。

何故ならば、浮かび上がったメッセージは、そのメッセージへと辿り着くための、プロセスそのものを指しているように見えたからだ。


その後「これでは同語反復だ、やはり単なる偶然だったんだ」等の意見が散見されたが、やはり筆者はそこに賛同できない。

それが指し示しているのは、その行為それ自体、或いは、「そのプロセスこそがメッセージだ」ということだったのではないだろうか。

つまり、(…恐ろしいことに)彼はただただ単純に、我々にこう伝えたかったのだ。



「これが、ほんとの―」

このあとに続く言葉がこの話の答えである。


亡くなった家族は、首が切り落とされ、その頭を犯人はダイニングテーブルの上に並べた。

事件の犯人は、宅急便を届けに来た人物だと考えられる。

犯人は、まだ生きていた家主の鈴木次郎を殺しにやってきた、というわけだ。


後半は、雑誌記者が事件を振り返ったもの。犯行の動機について記述している。

「そのプロセスこそがメッセージだ」

プロセスというのは、一家を殺害し、首を切り落として頭を並べること。

一家の名前は

和美(かずみ)
萌(もえ)
静香(しずか)
ラルフ(らるふ)
次郎(じろう)

全員の名前の「頭文字」を抽出すると

か も し ら じ

これを並べ替えると

か し ら も じ

つまり、頭文字だ。

犯人は、ダイニングテーブルに彼らの「頭」を並べ、

「これが、ほんとの“かしらもじ”」

ということを伝えたかった、ということだ。


本物の人間の“頭”を使って…。