新聞配達のバイトをしてた時の体験談です。


当時、私が配達を受け持っていた区域に古いアパートが建っていたんですが、

そこの2階の一番奥にちょっと気味の悪い部屋がありました。


毎朝4時半頃に、朝刊をドアの新聞受けに突っ込むんですが、

階段を降りる前に、必ず「カタン」と音がして、振り返ると新聞がなくなっているんです。


最初は「早起きの人が居るんだなぁ」なんて思っていたのですが、

それが毎日続くので、ちょっと気味が悪くなってきました。


新聞を入れた後、試しにドアの前でちょっと待ってみたのですが何も起きません。


あきらめて階段の方へ向かうと、背後で「カタン」と音と共に新聞が引き込まれました。


古いアパートなのでドアに覗き穴も無く、これはたぶん足音なんだと考えました。

そのアパートは階段も通路も金属製なので、足音がカンカンと響きます。


その音でタイミングを計っているのだろうな、と。


それである朝、2階に上がる時に靴を脱ぎ足音を忍ばせて配達してみました。


新聞を入れる時も、音を立てないように細心の注意を払って。

その甲斐あってか、階段を降りる時も新聞が引き込まれることはありませんでした。


何となく駆け引きに勝ったようないい気分でアパートを後にしました。


次の日の配達では、靴を脱がずに普通に足音を響かせて階段を上がりました。


奥の部屋の前に来た時、足裏でジャリッと音がしました。


靴底ごしに小石のような感触。


足下を見ると、粉々に砕けた牛乳ビンの破片があたり一面に散らばっています。


頭からス─と血の気が引いた瞬間、「カタン」と軽い音が聞こえました。


視線を上げると、新聞受の隙間から白い手がヒラヒラと手招きしていました。