俺が小さい頃体験した話でも。


思い出しながらで悪いけど


小さい頃は病院から繋がってる保育所に通っててさ、

その病院ってのを先に説明しておくと

障害を持った人達や、重度の病気の患者さんとかを専門に扱うところなんだよ。


当時の俺もその病棟に入ったこと何度かあったけど

小さい頃の俺はそこが大嫌いだった。


まず鼻を突くような薬品の匂いとか

あちこちから聞こえてくる患者さんの唸り声。


5歳にも満たない子供には刺激が強すぎだったよ。


人が死んだりってのも日常的にある場所だったらしい

(言い方悪いけど)


で、結構看護婦さん達の間でも


「死んだ患者さんが夜中歩いてた」


とか


「先日亡くなった男の子が窓の外からこっち見てた」


とかそんな話も少なくなかったそうだし、

実際そこの看護婦だった母さんからも

よくそんな話を聞かされてた。


それから隣は神社だったり、

よくわからない慰霊碑が立った森があったりで

正に心霊スポットのド真ん中に立ったような病院。


さらにその中にあったのが俺の通ってた保育所ってわけ。


それで、俺の保育所では毎年お泊まり会ってのをやるんだけど

その中に「肝試し」があったんだよ。


ルールはまあ有り勝ちなんだけど、

一人で保育所の奥にある裏口近くのトイレまで歩いていって、

そこにあるお菓子をとってくるっていうものだった。


まず子供達と保母さん達は一つの部屋に集まってて、

そこから一人ずつスタートするんだけど、

その部屋から外が全くの別世界。


異常なくらいシー…ンと静まり返った廊下の奥は完全な闇。


子供達の誰もが怖がって行こうとしないんだよね。


当然だけど。


それで、保母さん達が無理やり部屋の外に出すんだよ(鬼だよな)


もう一人闇に放り出された子供は大泣きしてた覚えがある。


それで年長組だった俺は最後の方に行くことになってたんだけど、

先に行って帰ってきたみんなが変なこと言い出すんだよ。


泣きながら


「真っ黒い人が居た」


とか


「足引っ張られた~」


とか。


俺も最初は強がって


「ウソだろー。怖くないもん」


とか言ってた(記憶がある)けど

自分の順番が近づくにつれてマジで怖くなってきた。


けど中には


「誰も居なかったよー」


とか言う奴もいたから、それを支えにして耐えた。


で、自分の番が来た。


部屋出た瞬間一気に血の気が引いたのを今でも覚えてる。


マジで真っ暗。


廊下は闇に吸い込まれてて、

手に持たされた懐中電灯だけが頼り。


元々病院の中にある保育所だから、さらに不気味でさ。


なんとか勇気を出して奥へ奥へと歩いて行った。


ちなみに、そのお菓子のある場所までは

二つの部屋を通過しないといけないんだけど

その一つ目の部屋に入った時のこと。


真っ暗な部屋に窓から薄く月明かりが入ってきて少し明るくなっていた。


その部屋の真ん中。


俺から3メートル離れてなかったと思う。


真っ黒な誰かが踊ってた。


姿は真っ暗で見えない。


というより

逆行にかかったように真っ黒で

顔はおろか服装も何も見えない。


そいつは小刻みに跳んで

手足を上下に激しく動かして踊ってた。


けど足音が全く無い。


あれだけ激しく跳んだりしたら


静かな廊下に足音が響き渡ってても良かったはず。


妙な違和感と恐怖に襲われて、

俺はすぐにお菓子のある場所まで走り

お菓子をひったくるように取り、みんなの部屋へ逃げ帰った。


部屋に帰った後みんなに報告すると

半分くらいの奴等が「見た」という。


だが保母さんはこの部屋に全員居るし

誰かがお化け役をやってるわけでもない。


ちなみに一番最初見に行った保母さんはそんな人見てないと言う。


見たのは一部の子供達(俺含む)だけ。


そこで俺と仲の良かった友人と二人でもう一度

同じコースを行かせてもらった。


二人なら怖くないだろう。


と思ったんだろう。


多分ビビってるみんなを見下そうという

ガキの浅い考えとかそんなところ。


それで部屋を出た俺達はまず一番目の部屋へ向かった。


だがそこには誰も居なかった。


さっきまで踊ってた真っ黒い奴は影も形もない。


すると突然


「パァンッ!!」


という風船が割れるような音が響き渡った。


当時の俺には知る由もなかっただろうけど、

いわゆるラップ音だった。


続けざまにパァン!!パァンッ!!と激しい音が響き渡った。


「え!?何!?何この音!?」


とビビりまくって友人に聞いてみても友人も


「わかんないよ!!」


と二人してパニック状態。


俺達は怖くなって次の部屋に走って逃げた。


そこに逃げ込むと今度はテーブルの下から足を掴まれた。


これはハッキリ記憶に残ってる。


友人と半分泣きながら振りほどき

必死に走って廊下に出てお菓子のあるところに来た。


で、そのお菓子のある箱の向かい側の壁…


そこに座り込んだ真っ白い人。


…ここはほとんど覚えてない。


でもよく覚えてるのはそいつの裂けた口が真っ赤だったこと。


他には目も鼻も髪の毛も無い。


ただ白い人型の赤い口が三日月みたいに付いてるだけ…


そいつが無言で追いかけてきたこと。


ここで記憶が途切れてて先がどうしても思い出せないんだわ。