放課後と言うにも遅い時間、

大体7時ちょっと前。


会議とかがひと通り終わって、

職員室でマターリ。


もちろんこのまま帰っちゃってもいいんですが、

まあテストの採点でもするか、と机見たら赤ペンがない。


ああ、教室に置いてきたなと。


教室は以前にも投下したように2階にありますが、

節電のためか廊下には非常口のミドリ色しか明かりがないんです。


でも暗くなってきたとは言え近いし、

めんどくせえので、そのまま直行。


迷うはずもなく自分の担当教室に着いて、

電気をパチリ。


外はだいぶ暗くなってきて、

反対に教室は電灯で明るいもんだから、

窓ガラスに教室の様子がくっきりと映っています。


そのときは気付かなかったのですが、

机の引き出しを開けて赤ペンを取り出し、

閉めて鍵をかける。


はい終了、と思ったら

ようやくおかしなことに気が付きました。


帰りの会をやって、子供たちがいなくなる。


で、カーテンを閉める。


電気を消して、ドア閉めて、

それからずっと入った人はいないはず。


そのカーテンが全開になってるんですね。


だから窓ガラスに教室の様子がうつっていた、と。


それはまあいいんです。


問題は、そのガラスに映っている教室。


子供たちの机に、

ズラッと人が座ってるんです。


慌てて教室を見まわしても、誰もいません。


当たり前です。


でも、いるんです。


私は近くの窓ガラスを開けてみました。


外の風が存外に冷たく、

ベランダには誰もいないことを確認してから、

また閉めました。


やはり映っているんです。


クラスは31人ですが、

そのすべてに知らない人が着席しています。


全部を見たわけじゃないのでなんともいえないですが、

全員男、それもおっさん。


なぜかスーツにネクタイ、

頭全部が白髪で、どう見ても生徒じゃない。


うつむいて、微動だにせず、

ズラーッと並んでいます。


なんだコレ・・・。


私は霊感とか幽霊とかはよく分からないです。


ホラーは好きですが、それも趣味の範囲内の事。


ですから、その時もなんだこれ、なんだこれ、

と思うばかりで恐怖は感じませんでした。


窓ガラスには確かに映っているのに、

現実には誰もいない。


イスだって、閉めたままです。


そこで私は、ガラスに映っているそれを見ながら、

手にある赤ペンをそおっと突き出したんです。


1番前の席に、座っている(ように見える)おっさんの頭に、

赤ペンがずぶっとめり込みました。


赤ペンは確かに頭に埋まっているのですが、

でも手には何の感触もありません。


ますますわけ分からなくなって、右に左に振ったり、

さくさくすぽぽんとピストン(なんだかヒワイだなあ)してみましたが、

何の反応もなく、そのおっさんもずっとうつむいたままでした。


と思ったら、

いきなり顔を上げたんです。


赤ペンの位置は変わっていないから、

もろに目玉のあたりに突き刺さっている形。


うおッ、と思って視線を戻すと、

やはり何もないんです。


ここに来てなんだか心臓がどっくんどっくん。


もしかして、これまずい?


横目でガラスのほうを見ると、絶句しました。


こっち見てるんです。


しかも、全員が。


赤ペン突き刺していた1番前の人も、

普通に考えるなら横顔のはず。


だって、私を見上げてる形になるんですから。


窓のほう向いたって、

私はガラスの中にいるわけじゃない。


なのに、全員が窓のほうを向いているんです。


心臓の鼓動が早くなってきました。


どっくん、どっくん、どっく、どっく、どっく・・・。


彼らは怒っている風でもなく。


無表情なんだけど、

こっちに気付いてるってのがすごく怖かった。


ゆっくり赤ペンを戻し、視線をドアのほうへ。


何気ないふりを装って、そっと歩き出す。


ドアのところまで来た。


そして、ここが自分でも不思議なんですが、

最後にチラッと振り返ったんです。

...

すると、窓に映っているのは沢山の後頭部。


こっち見てるんだ!


見た&理解した瞬間、

もうたまんなくなって廊下をダッシュ。


階段を下りて職員室へ。


他の先生たちがお茶飲んだり談笑しているのを見て、

ふはーっと息をつく。


1人の先生がこっちに来る。


な、何?と思ったら


「鍵閉め点検いってきまーす」


と。


あ、あ、あ・・・。とっさに出たのが


「あの、ウチの教室、閉め忘れてたかも」


「あ、そうですか。じゃあみてきますね」


それだけ聞くと、すぐさま帰り支度をして、


「キ、今日はこれで。お疲れ様でした、お先に失礼します」


はーい、うぉーい、おつかれー

と言う返事も無視して帰宅まっしぐら。


翌日、見回りに行った先生が


「あの、○○(私)先生・・・。」


「見たの?」


「え・・・はい」


「何も言わんといて。私もよく分かってないから。すんません」


「でも・・・あのおばあちゃん達って」


おばあちゃんって誰ですか。