夏に、親父と私(小学生)が2人で、

車に乗って出かけた事がありました。


目的はよく覚えていないのですが、

確か祖母の家に行く、

とか、その様な感じだったと思います。


夜の10時くらいでした。


親父が、タバコを買うのでちょっと待っていてくれ、

と言い、住宅街の暗い夜道の脇に車を止めました。


車には私一人です。


私は車の窓を何気なく開けました。


車を止めた場所からすぐ近くにあった、

学校らしき建物。


そのグラウンドの上に誰かいるのが、

薄暗い灯りによって見えました。


4~5人ぐらいだったでしょうか。


みな、手にホウキのような物を持っていて、

何かが入った袋のようなものを取り囲んでいました。


かなり大きいそれは、

もぞもぞと動いていました・・・


親父は、まだ帰ってきませんでした。


あれは確実に「人間」で、

しかも「大人」では無かったと思います。


私は視力がかなり良いほうなので、

背丈や顔の特徴から、

当時の私と同じくらいの子供だったと確信しています。


長めのスカートも見えたので、

少女もいたのでしょう。


彼らが、ホウキのような物で、

その袋を殴り始めたのは、

それからすぐの事でした。


袋の中からは、

うめき声らしき物が聞こえました。


鈍感ながらここで初めて恐怖が襲ってきましたが、

今、窓を閉めると、

閉める時の音でバレてしまうと思い、

それも出来ずに、

私はその光景をずっと見ているだけでした。


子供たちは、袋に入った塊を殴り続けています。


だしぬけに、それを足で踏みつけたのは、

スカートを穿いたあの影でした。


うめき声は、

もうかなり小さくなっていました。


どれだけ長かったでしょうか・・・


タバコを手にした親父が漸く帰ってきました。


そして、親父がドアを開ける音に安心しました・・・が、

その途端、殴打の音が突然止んだのです。


反射的に、ハッと振り返りました。


グラウンドに並列に並んだ小さな影は・・・

微動だにせず、私の方向を向いていました。


全員の手にはホウキ。


動かなくなった袋。


安心は一気に吹き飛びました。


私は座席の下に潜り込むように隠れ、

車が発進するのを、ただひたすら待ちました。


親父は怪訝な顔をしていましたが、

そういう事に対して割と無関心な人で、

深くは追求されませんでした。


私も、説明する気になどなりませんでした。


帰り少しが遅くなったのは、ただ、

札の通る自販機が遠くにしか無かったから、

と聞かされました。


あの後、私が知る限りでは、

その様な感じの事件は無かったように記憶していますが、

それは私が知らないだけで、

もしかしたら・・・とも考えたりします。


これが霊感などは全く無い私の、

ただ一度だけの、不可解な恐怖体験です。