学生時代の話。


期待に胸を膨らませて地方の駅弁大学へ入学した。


周囲は知らない人ばかり。


そんな中でひょんなところで

最初に知り合ったのがシンジだった。


シンジとは結構馬が合って、

授業が終わっても一緒に遊んだりしていた。


とはいってもあまり恵まれた環境ではなかったみたいで、

服はチェックのシャツを数枚持っているだけで、

夏も袖をまくって着ていた。


ただ、汚らしいイメージはなくて、

男性にしては珍しくアイロンがけとかしていて

それなりに清潔な身だしなみだった。


シンジの下宿にも何回か遊びに行った。


古ぼけた下宿の4号室。


半畳の土間の横は作りつけの箪笥。


部屋は4畳で狭かったが、

いつも几帳面に片付けていた。


「俺ってあんまり恵まれてないからさ、狭い下宿でゴメンね」


と、すまなそうな顔を彼がするたびに

気まずい気持ちになっていた。


3年の終わりから暫く個人的な問題で気が滅入っていて、

正常な思考が出来なくなっていたが、

なんとか4年に進級して、学校にも通うことが出来た。


何故かシンジは来ていない。


4年になって殆ど単位を取得したのかな、と

思いながらシンジの消息を聞いた。


「シンジって誰だよ?」


全員の返事だった。


「ちょ、ちょっと待てよ。

ほら、一緒にシンジの部屋へ行ったときに

狭い下宿でゴメンねってすまさそうな顔を…」


といいかけたとき、俺は気づいたのだ。


記憶の糸が少しずつ解れて行く。


おかしい。


奇妙なことが多すぎる。


「すまなそうな顔をした」


シンジの顔が思いつかない。


苗字も知らない。


あいつの学籍番号さえ知らない。


何故だ?何故だ?だってあいつの下宿は…


考えてみればおかしいことばかりだ。


あいつの部屋ってそういえば

3号室のドアと5号室のドアに挟まれてたぞ。


普通、部屋があるからスペースがあるじゃないか。


あいつの部屋、

4畳のはずだったけど、

正方形だったよな。


4号室、4畳、下宿の住所「○○944番地」、

いなくなったのが4年の4月…


執拗に重なる「4=死」のイメージ…


あいつの名前、シンジ…シンジ…信士?戒名???


俺は全てがわからなくなって叫んでしまった。


暫くわけがわからず授業にも出ずにすごしていた。


あれは俺の思考回路がおかしくなったときに

バグとして挿入された偽記憶だったんだろうか。


彼がいた(と思っている)下宿にも行ってみたが、

3号室の隣は5号室だった。


窓を開けて一緒に見た景色も、

隣も下宿の壁でありえないものだった。