バレンタインが来ると思い出す。


小学生の頃、俺は結構女の子に人気があったのだが、

その頃は女の子とちょっと仲良くしていたりすると

直ぐに噂になったりからかわれたりするので、

本当は嬉しいんだけれど硬派?の振りをして


「女なんかに興味無いよ、俺はサッカー命だから」


と装っていた。


そんな時、バレンタインの日に

名前も覚えて無い程地味な女の子が俺にチョコをくれた。


帰りの会は終わっていたが、

みんながまだ残っている教室で・・・


その子は1月からの転入生だったので、

教室の空気が読めなかったのかもしれない。


あっという間に俺とその子はみんなに囲まれ、


「熱いねえ、お二人さん」

「ヒュー、ヒュー」


と次々にはやし立てられ、

黒板には相合傘を書く奴もでてくるし、

大騒ぎになった。


俺は恥かしさのあまり、つい


「こんなのいるかよ!、迷惑なんだよ!」


と怒鳴って教室の窓からチョコを投げ捨ててしまった。


その瞬間、辺りは静まり返り、

その子は泣き出してしまった。


クラスの女子達には


「可哀想、謝りなさいよ」


の大合唱をされ、

からかっていた男子はいつのまにか居なくなってるしで

途方にくれたが、意地になって拾いに行かず、

そのまま家に帰った。


家に帰ってしばらくして冷静になると、

やっぱりまずいよなあ


あの子泣かせちゃったし、

謝らないとクラスの女子に無視されるかも・・


とか色々思い悩んで、

暗くなって誰も居なくなったら拾いに行って来よう

となった。


夜10時をまわった頃だろうか、

俺はこっそり家を抜け出して学校へ向かった。


夜の学校は異様に静かで不気味な感じだ。


門は当然閉まっているのでよじ登って乗り越え、

とりあえず校庭にでた。


そこから校舎を見上げて、4階の右端が教室だな、

あそこの窓から投げたんだから

だいたいあの辺り・・・誰かに拾われてないだろうな。


・・・そこは砂場だった。


よりによって砂場かよ、

埋められたりしてなければ良いけどと思いながら近づくと、

なにかが動いている。


暗いうえに砂場は一段下がった所にあるので

近づくまで気がつかなかたのだ。


「誰?」


ちょっと声が震えていたかもしれないが、

勇気を振り絞って声をかけた。


返事は無い。


更に近づくと黒い影が2つ見えて、

何か声が聞こえてくる。


そこで俺は動けなくなった。


「まったくもう、あんな子のどこがいいの?

もっと良い子がいるでしょ」


「あんたのをもらわないなんて

M君(俺の名前)もどうかしてるわ」


そう、あの女の子と母親らしき人が

二人でチョコを探していたのだ。


俺はそろそろと気付かれないように後ずさりをして

傍の木の影に隠れた。


「あんたも転校ばっかりでかわいそうな思いさせて・・・」


「でも良い子にしてくれるから本当手のかからない・・」


などと話す声がザッザッという掘る音と共に聞こえてくる。


30分位経っただろうか、見つからないらしい。


ついに諦めたらしく立ち上がった二人、

表情は暗くてわからない。


が、確かに聞こえた。


母親がこういうのを。


「ホワイトデーには必ずお礼をしないとね」


俺はもう恐怖でいっぱいになって

気付かれたかも知れないが

ダッシュで家に逃げ帰った。


結局あの子には謝るどころか近づくこともできず、

ホワイトデーになる前に親が急に転勤になって、

引越してしまった。


今の時期になると思い出す・・・


ホワイトデーまでいたら何が起きたのか。