ひょんなことから彼と一緒に、

竹をつかった音楽ワークショップに明日参加することになった。


竹は各自持参のこと。


だそうなので、

夜に彼の家から私の家に向かう途中、

竹林に立ち寄っていただいていくことにした。


なんだかんだしていて、

もう真夜中をすぎてしまったが、

計画は実行しようと竹林に立ち寄った。


一応舗装してある細い抜け道のような車道を林に入ると、

とたんにあたりは車のライトがやけに強調されるほど真っ暗。


未舗装の小道を50m程入ったところで、

ここなら1、2本取ったって

誰の迷惑にもならないだろうと車を停めた。


懐中電灯という気の利いたものは持ってなかったので、

車のライトをつけたまま竹切りに専念した。


太い竹を狙っていたので結構時間がかかる。


やっとこさ切って適当な長さにし車に積み込み、さて出発...


「あ、バッテリーあがってるわ..」


あれーどないすんねん!


時間が時間だしこんなとこ車も通らない。


しかたなく私たちは歩いて車道まで出て公衆電話を探した。

(まだ携帯普及してない時代のことよ)


ラッキーにもわりと近くに電話を見つけ、

まだ比較的近所+こんな時間でも出てきてくれる友人に電話をし、

助けを求めた。


友人は快くすぐに来てくれるとのこと。


よかった。


さてその友人が到着し、彼と2人はリードをつないで

車を復活させる作業にかかった。


竹林の中、車のエンジン音がとても異質に響く。


私はすることもないので、車周辺をうろうろとしていた。


(あれ、なんか聞こえる..)


騒音の中、右手の竹林の中から

歌のようなものが聞こえて来る気がする。


そっちに目を凝らしてみたが、もちろん真っ暗。


人家のあかりもない。


ライトと対照的な暗さのせいで空間の深さが実感できず、

やたら濃い闇に思えた。


(空耳?ノイズのせい?..でもやっぱり聞こえる..)


私はその方向に近寄って耳を澄ましてみた。


車の音とは明らかに違う方向からのかすかな美しい歌声だった。


それは例えて言うなら古い「手まりうた」のようだった。


声はせいぜい12、3才の女の子。


きれいな声でちょっと悲しい調べ。


彼はまだ車に集中していたが、

もうする作業もない様子の友人に

歌声を一緒に確かめてもらおうかという気になり、


「ねぇ..」


と心持ち引き加減で話しかけたとたん、


「言うなーー!」


と友人は耳をふさいだ。


「えっ、やっぱり聞こえてたの!?」


「あかん、あかん、言うたらほんまになるやんか!!」


その瞬間私たち二人は異様に寒いモノを感じ、

思わず手を取り合って固まってしまった。


ちょうど車が復活し、


「なにしてんの?」


という顔の彼をせかし、

私たちは竹林を脱出した。


後日その友人と何が聞こえていたかを確認しあった。


それはぴったりと同じ感想だった。


あれは確かに聞こえていたと思う。


手まり歌のような、数え歌のような..