これは私が小学校低学年の時の話なので、

もう十数年も前の話です。


夏、同じ町内に住んでいる友人達と肝試しをしようという事になり、

じゃあどこへ行く?という時に、友人の一人が「とっておきの場所」

を知っているんだと言い出したのです。


彼が言うにはそこはかつてドラム缶に入れられコンクリート詰めにされた

女子中学生の死体が発見されたといういわくつきの場所らしく、

今もまだそのドラム缶が放置されたままになっていると言うのです。


今にして思えばそんな筈がありません。


変死体が回収されないでそのまま放置される事なんてありえないからです。


でも小学生だった自分はすっかりその話を信じ込んでいました。


「じゃあそのドラム缶を見に行ってやろうぜ。」


誰かがそう言い出し、反対する者はいませんでした。


私は怖かったのですが、

ここで行かないなどと言おうものなら

腰抜け扱いされる事はわかりきっていたので、

何も言わずしぶしぶ後を付いて行く事にしたのです。


目的地に着くまでそれほど時間はかかりませんでした。


そこは薄暗い場所でした。


正確に言うとそこは斜面に建つ民家の床下とでも言うんでしょうか、


斜面に建つ家の床を水平にする為に

家の床下に当たる部分から柱が数本

斜面に向かって伸びていて、

そんな場所ですから当然日の光も差し込みません。


体の小さい小学生でも圧迫感を感じる様なその狭い場所に、

それはありました。


友人がドラム缶だと言っていた板それは正確にはそれはドラム缶ではなく、

木で出来た樽というか蓋の付いた大きな木桶の様なものでした。


「・・・ドラム缶じゃねーじゃん。」


仲間の中でも一番気の強い事で知られた奴が

精一杯強がって言ったのですが、

その声は微妙に震えていました。


その木桶は体を丸めた子供を入れておくには

十分な大きさがあり、上には重しでしょうか、

コンクリートブロックぐらいの

大きさの石が四つ載せられていました。


その時仲間が想像していたのは多分同じ光景だったと思います。


桶に放り込まれ、頭の上からコンクリートを流し込まれた上で

逃げられない様に蓋を閉められ、更に石を積まれる被害者の女の子。


頭の中では必死に


「そんなわけない」


と否定するんですが、笑い飛ばしてしまうには

目の前の光景はあまりにも不気味でした。


その内、誰からともなく


「気分が悪いから帰ろうぜ」


と言い出し、皆逃げる様にそこから斜面を登って

道路まで戻ろうとしたんです。


その時、一番後ろにいた奴が、私の袖をつかんで


「おい・・・おい!」


と呼びかけるんです。


私は正直その場所を振り返りたくなかったので、

出来る事ならその手を振り払ってでも逃げたかったんですが、

仲間を置いて行く訳にもいかなくて前を歩く皆を呼び止めました。


皆が振り返ると、私を呼び止めた奴は呆然と上を向いているんです。


天井、というか、民家の床下にあたる部分を見上げているんです。


それを見た時の事をどう言ったらいいのかわかりませんが、


その時それを見た全員が言葉を無くしていました。


初めは暗くて見えなかったのでしょう。


でも目が暗闇に慣れた今はそれが見えました。


子供の手形です。


手形が天井や柱を埋め尽くしているんです。


手に泥を付けて押し付けたみたいな手形が

びっしりとそこらじゅうにあったんです。


子供が斜面からどんなに飛び上がっても、

天井部分にあんなにはっきりと手形を残す事は無理だと思います。


大人なら可能でしょうが、誰が、何の為に

そんな事をするっていうんでしょう。


私達はそこから必死で逃げ出しました。


私は怖くなってしまって、後で両親に相談したのですが、

そこは友人が言っていた殺人事件の死体発見場所なんかではありませんでした。


それどころか、地元では

コンクリート詰めの死体が発見された事なんてないと言うのです。


後になって、その殺人の話は友人のつくりだと判りました。


彼は秘密基地を作ろうと思って

人気の無い場所を探している間に

例の桶を見付けて、これで友達を驚かしてやろうと思っただけだったのだそうです。


結局私達は彼の作り話にころっと騙されたわけですが、

彼にとっても意外だったのは例の手形でした。


彼は


「自分が最初そこに行った時には絶対にそんなもの無かった。」


と言います。


今となってはそれが何だったのかわかりません。


ただ、後になって、その家の前の通りで

昔子供が事故死したらしいという話を聞きました。


最初にその場所を見付けた友人は

無意識の内にその子に呼ばれたのでしょうか。


それ以来、肝試しをした事はありません。


いつ本物に会うかもしれないと思うと恐ろしくて・・・。