小学校5年くらいの頃、

まだまだバカだった自分は、

相も変わらず夏になると蛙釣りを楽しみ、

釣り上げた蛙を叩きつけて殺すという残虐な事をやっていました。


大量に釣ってしますので、

それに比例して殺す量も半端ではなくなっていきました。


自分に釣られて友達もみんな殺戮を始めたものですから

一度学級会議にかけられた位でした。


それでも懲りなかった俺は、

ためらうことなく蛙を殺していました。


蛙のいる水田は夏の水が張っている間だけですので、

秋になるとシーズンオフになります。


そして刈り入れシーズンの10月に異変は起こりました。


その異変は一枚の写真から発見されました。


母が見つけたらしいのですが、

それは運動会の徒競走の写真で首位争いをしていました。


当然写真の中の自分は歯を食いしばり

全力で走っています。


しかしそこには違和感がありました。


あごに何かがある。


心霊写真の類ではありませんでした。


あごの下が全体的にボコッと膨らんでおり、

それはまるで蛙のようでした。


それを見たあと、

当然俺の左手はあごを触っていました。


何もない。


最初はそう思い安心しました。


しかし母の


「力を入れてみて」


という言葉を受け、

グッと力を入れたところ、

異変は顔を出しました。


写真と同じように膨らんでいました。


他にも口中の舌の下に

半透明の腫瘍状の物ができていました。


この口腔内の腫瘍には俺は気がついていました。


ただ何物かわからず

怖かったので親には言っていなかっただけでした。


大きさは親指の爪位の物でした。


その年の写真を見返してみても

そのような写真は一枚もありませんでしたので、

8月に撮った最後の写真以降に発生したものだろうとの結論が出ました。


その日の夜、

知り合いの歯科医に見てもらいました。


その先生の診断によると

「がま腫」ではないかと言っていました。


「がま腫」とは唾液腺疾患の一種で

舌下腺や唾液腺の閉塞による膿胞で

口腔外科へ行って見てもらうようにとアドバイスを頂き、

大学病院の口腔外科を受診しました。


大学病院の先生は、

がま腫の一種ではあるだろうが、

それにしては大きすぎる。


このままでは気道を圧迫するかもしれない。


少し様子を見て大きくなってくるようなら

すぐに取ってしまわないといけない、

と小学生の俺をびびらせてくれました。


そしてそれから2ヶ月様子を見ていましたが、

その腫瘍はじわじわと大きくなっていきました。


これは早急に取ってしまわないと命にかかわるということで

術前検査を行い、1週間後に入院ということになりました。


ここで、少し時間を戻しますが、

「がま腫」という名前を聞いた瞬間、

自分が行ってきた蛙の殺戮行為が頭に浮かび、

まさかという気持ちと

祟られたという気持ちが頭を支配しました。


祖父にがま腫のことを話したとたん、

なにかまじない的なことを

俺に行うようになりました。


後々そのことについて聞いたところ

大阪の石切剣箭神社という

腫れ物の神様を祀る所に関連する簡単な祈祷だと言っていました。


信心深い祖父ではありましたが

まさかそんな祈祷の真似事までできるとは思っていませんでした。


毎日毎日その祈祷を

祖父は俺に行ってくれました。


その祖父の姿を見ていて、

俺は今までの蛙にしてきた仕打ちを次第に反省するようになり、

何故か空に向かって謝ったりなんかもしていました。


それは入院前の最後の診察前夜にもまだ続いていました。


そして診察に行ったとき、

できものに変化がありました。


突然小さくなっていったのです。


1週間前の診察時よりはるかに小さくなりました。


薬などは服用していませんでしたが、

このままなくなってしまうのであれば、

手術するよりはいいとの医者の判断で入院・手術は中止になりました。


ただ、薬で完治することはないとの判断から、

定期的に受診することになりました。


一月後、二月後と診察を重ねていく度に

できものは小さくなっていき、

その頃には口の中の膿腫も無くなっていました。

(正確に言うと無くなったのでなく、

自分で針で穴を開けて内容物を出したのですが)


結果的に最後の診察になった3月の診察時には

できものは確認されず、

そのまま終息という形に落ち着きました。


あごのできものは

その後1度だけ出てきましたがすぐに引っ込み、

口腔内の膿腫は2~3回発生し、

その度に針で刺しました。


それから約20年は何も起こっていません。


祖父は後々発生したときのために

その祈祷を教えてくれると言っていましたが

その機会は作れず、教えてもらえませんでした。

(すでに他界)


以上です。


特に何があったと言うことでもなく、

俺が勝手にそう思っているだけで

祖父の祈祷が効いたのか、

自然治癒しただけなのかわかりません。

(がま腫は自然治癒することはあまり無いそうです)


詳しい人なら

医学的に全て説明できることだろうとは思います。


が、俺にとっては

意味も無く命を奪うことの罪の重さを感じた出来事でした。


この出来事以来、

俺は蚊すら殺せなくなりました。