聞くともなしに聞いた話、夏休みに起きたことだそうです。


木造2階建ての2階で昼寝をしていた子供が、

ドアチャイムの音に目を覚まして玄関へ向かった。


その子が寝ている間に親は外出したらしい。


以前にもそういうことは多かったので子供は


「面倒くさいなぁ」


と思いつつ階段を駆け下り、

そのまま真っ直ぐにドアスコープを覗いた。


すると外にいる人もドアスコープを覗き込んでいた。


いきなり目が合ってしまった子供は驚いて後ろへひっくり返ってしまった。

「変な人?」


と思っているとドアをノックする音がする、トントン、ドアをノックする音がする。


鍵は掛かっている、すこし怖かったけれど子供はもう一度ドアスコープを覗いてみた。


すると夏の日差しに照らされた玄関先におかしな物が見えた。


150センチくらいのグレーの人影が左右にブルブルと震えているのだ。


「???」


と思った子供がスコープに張り付いていると、やがて影は視界の外へ消えた。


裏庭の方へ回ったようだ。


震える影は両の手を下前方へ差し出して、

老人のように前屈みによろけながら動いていった。


それはまるで落とし物を探しているような様子だった。


尋常ではない物の様子に


「お化けがいる!」


と思った子供は、影が家の中へ入ってこないように戸締まりをすることにした。


裏に回った影が来ないうちに家中の戸を閉めてしまおうと思ったのだ。


先ずは始めに一階。


・・・炊事場にある裏口は閉まっていた。


・・・テレビや食卓のある八畳間も閉まっていた。


・・・父と母が床を敷く六畳間も閉まっていた。


外出した母が戸締まりをしていってくれたのだ。


戸締まりを確認した子供は少し安心するとこれからどうしようかと考えた。


影がどこかへ行ってしまっているなら、誰かが帰ってくるまで外へ出てしまいたい。


・・しかしまだ影が外にいるかどうか確認するのは怖い。


子供は誰かが帰ってくるまで二階へ避難することにした。


誰もいないはずの室内、左右を見渡しながら玄関へ向かった子供は急な階段を2段ごとに駆け上がった。


ダダダダダダンッ!


しかし次で二階というところで子供は足を踏み外してしまった。


最後から2段目のところで何かに足を引っかけたのだ。


腹這いの姿勢で階段を滑り落ちた子供。


1階に落ちた子供は再びおかしな物を見た。


それは2階から顔を覗かせる中年女性の顔だった。


傷だらけの古い映画のようにカタカタと震える白茶けた顔。


じっと自分を見つめるその顔に、もちろん覚えはない。


あわてて下へ目を逸らした子供、子供の目には磨き込まれた階段が映っている。


・・・その階段の踏み板の下、その木の継ぎ目の隙間からか細い腕が伸びていた。


子供の恐怖心はもう限界だった。


その子供の目の前で、腕はするりと継ぎ目の中へ消えていった。


と同時に子供は堰を切ったように泣き始めた。


昼寝をしているはずの子供の声に、隣家で話し込んでいた母親が血相を変えて戻ってきた。


しかし階段の下、玄関先でうずくまる子供の話は全く要領を得ない。


「寝ぼけて階段を踏み外したのだろう」


ということで子供は病院へ連れて行かれた。


頭を打った様子もなく、幸い軽い打撲だけだったのでその日のうちに子供は家へ帰された。


しかしその子供が二階へ上がることは一家が引っ越す日までついになかったそうです。