旅館にバイトしに行ったんだよ


学生のバイトの主な動機なんて

「割のいい小遣い稼ぎ」てなもんだから、

俺もご多分に漏れず条件にあてはまるの探しに探して、

やっと自給850円の小規模な民宿のベットメイクに目をつけたんだ。


体力使うっていっても大したことじゃないし、

シフト制なのもぴったしだったからさ。


んで、

一通り先輩方に仕事のやり方を説明してもらってたんだけど、

そこで変なルールつきの部屋の説明を受けたんだわ。


4階の奥の方の部屋なんだけど、

絶対ドアを閉めちゃいけないって言われたんだ。


「開かずの部屋」じゃなくて、

「閉まらずの部屋」なんだって。


その民宿は4階建てで、

上から見たら下の部分が長い凹の形をしててさ、

問題の部屋はその左上の端っこにあるから、

4階に上がってもそっちのほうに行く人しか

ドアが開いてるかどうかは目視できないんだよな。


別段景色のいいところでもなかったから、

4階に泊まる客自体も少なかったし。


でも一応毎回部屋のクリーンアップはしなきゃならないから、

実際他の部屋と同じようにポット代えたり軽く掃除したりはするんだ。


ただ、終わって出ても

その部屋のドアは開けっ放しにするだけ。


俺は霊感なんかこれっぽっちもないけど、

そういう話は大好きで興味あったから

実際にバイト終わった後トイレに行く振りして

その部屋に行って調べたんだよ。


でも掛け軸の裏や

箪笥の奥に札なんてのは何一つなかったし、

窓の外の外壁とかまで注意深く探してみても

変なシミ一つさえ見当たらなかったんだよね。


そんなもんだから他のバイトにも

実際どう思うよ?って話したら、

ほとんどの学生バイトの見解も

「迷信じゃね?」ってな感じだった。


Aってやつとは話があったバイト仲間だったんだけど、

そいつと2人でやる時にも一緒に入って色々見たけどなーんにもなくてさ。


先輩にうまくからかわれただけだなw

って結論を出した。


で、のらくらとバイト続けているうちに

またAと一緒に4階を回ることになって、

その時に堪え切れなくて言っちゃったんだな、


「あの部屋のドア別に閉めてもいいじゃん、

何も変わったところないし。」


って。


で、部屋のクリーンアップ終わった時に試しに閉めてみた。


立て付けが悪いわけでもなく実に自然に閉まった。


風で変な音が出そうな気配も無い。


Aも


「なんだ、壊れてるわけでもないのかよ」


って呆れ顔だった。


んで、


「どうせ俺ら明日もバイト入ってるんだし、

閉めたまま様子見るのもよくね?」


ってなったんだ。


俺もいけないとはわかってたけど、

まぁ問題が起きても自己責任だしなって思って同意したんだ。


それよりなんで閉めちゃいけないのかが

ろくな説明も無かったから気になってさ。


んで、客はもういなかったから

4階の廊下でシーツとかAと2人でまとめてたら、

その閉まらずの部屋のほうから突然、


「出してくれええ!!」


って男の野太い声が聞こえたんだ。


Aと顔を見合わせて、Aが


「逃げるぞ!」


って言った瞬間

脱兎のごとく逃げ出したよ。


2階で仕事してた

「閉めるな」の説明をしてくれた先輩にそのことを話すと、

ウンザリした顔で一緒に開けに行こうって言ってくれた。


大の男2人が女に連れられて部屋のドアを開けにいったんだが、

もう体裁なんて気にしていられなかった。


自分たち以外人のいないとこから

あんな声が出て本当に脂汗かいてたし、

泣いて許されるんだったら家に帰りたかったけど。


話によると、

その部屋で持病の発作を起こして死んだ人がいるらしかった。


たまたま薬を持った人が

小用で出てるときにそれが起こってしまって、

ドアの前で絶命していたらしい。


それ以来、ときたま

弱弱しくドアを叩く音が聞こえる現象が続いたらしくて、

もちろんその部屋は使用禁止+お祓いってことになったんだけど、

結局消えなかったんだって。


けど、そのドア開けっ放しにしておくと

その音はなくなるらしい。


その部屋の玄関口で倒れた霊がときたま出るから、

なんだってさ。


もちろん俺とAは一端引き止められたものの

結局バイトは辞めてしまった。


今でもその旅館は普通に営業してるけど、

お札とかなくてもそういうのには気をつけなきゃいけないと本気で思ったよ。