オレが小学生の頃、

近所の中学校の近くに人面犬が出るって話があった。


その中学校の周りって住宅街なんだけど、

生徒が登下校する時間帯以外は無人地帯になるんだよ。


車も通らないし、

帰りの生徒が車道を歩いても全然問題にならない位でさ。


学校周りの一辺が100m以上だったかな。


それが時間を問わずに無人なもんだから、

小学生でも低学年の内は、

皆なんとなく避けてたね。


近付くのを。


んで昔ってさ、

野良犬が結構いたんだよね。


授業中に校庭に駆け込んで来たりとか。


友達と公園で遊んでて、

突然に乱入とか。


犬が苦手な友達とかは、

泣き叫んで逃げてた。


訊いてみたら、同級とか、

兄弟の世代でも同じ感じで、

皆なんとなく、

犬に対して苦手意識を持ってた。


だから当時のオレは、


「100m道路への不安感」





「犬に対する恐怖感」


が一致して、

この噂が生まれたんじゃないかと考えたんだ。


でも、そのとき、疑問に思ったんだ。


「何で今、そんな噂が出てくるだろう」


って。


学校で何かが流行る時って、

大抵の場合は由来があったから。


遊びの種も、笑いの種も、苛めの種も。


今思い返しても、

それらの由来の大半はTV番組だったと思う。


でも、オレが小学生だった当時でさえ、

人面ナントカなんて時代遅れも甚だしいものだったんだ。


噂を耳にした前後、友達に訊いたり、

新聞を遡って色々チェックした。


案の定、

TVとかラジオでそんなものを取り上げはしてなかったし、

他所で流行っているという事も無く、

何かこう、突発的に現れた印象だった。


だから当時のオレは、

好奇心にに突き動かされて、

期待半分、何もないだろうっていう気持ち半分で

調べにいったんだよ。


勿論、本人としては調査のつもりだったけど、

実際には、目撃したという幾つかの噂から、

出現頻度の高い場所を選んで行っただけなんだけど。


まだるっこしいのは嫌いだから、

結論から言う。


噂の基となるものは、居た。


夕暮れ時さえ過ぎて、

辺りが蒼く暗くなったその時、

100m道路の向こうから、

四つん這いで此方目掛けて走ってくるオッサン。


歪な身体つきで、

でも妙に小柄な姿。


暗色のトレーナーを着ていたと思う。


口は犬みたいに開けていて怖かった。


髪は角刈りだった。


当時は恐怖で頭の中が真っ白になっていて、

目撃した瞬間、本当に本物の人面犬だと思った。


此方に走ってきていたと思ったが、

道路の半ばで横の道に駆けていった。


其処まで見てからオレは走って逃げた。


書いてて脂汗が出て、

気分も悪くなってきた。


克服したと思っていたけど、

思ったよりも根深いトラウマだったみたい。