俺は登山好きなんだけど、

百間平周辺を通る度に、

毎回すげぇ濃い霧と雨にやられる。


90年の秋かなぁ、

3人で縦走してたんだけど、

そん時もすげぇ濃い霧だった。


だだっ広いし、

積み重なった石の原っぱみたいなとこだから、

マーカー探すのも苦労した。


何も見えなくてすげぇきつかったし、

寒くて、サイの河原の中を延々歩く感じ。


途中で、メンバーの一人が急にバテ出して吐き気を訴えたから、

小さなケルンのあるとこで小休憩をとることにした。


馬鹿話しながら、ルートを少し外れて、

ザックを下ろして石に腰掛けた時、

ギィッとでかい音がした。


最初は鳥の声だと思って、

クッキーと水飲んで地図とか見ながらぼんやりしてたんだけど、

そしたら、また尻の下からギリギリッて音がした。


俺は


「あれ?なんだろう?」


と思って、腰掛けてた石の下を覗いたんだ。


結構でかい石がどかどか積み重なってる辺りで、

隙間もでかかった。


目を凝らすと、

奥になんか黒い塊が転がってるのが見える。


なんか気になったけど、手は届かないし、

霧がすごくて暗いし、しばらく目が慣れるまで見てた。


そしたら、黒い塊の表面に急に茶色い犬歯がにぃって見えて、

その歯がギギッてさっきの音たてた。


その瞬間、背筋が凍った。


人の首だった。


ミイラみたいな感じで、目がくぼんでたんだけど、

そこが細い白い糸でぎっちりと等間隔に縫ってあって、

まぶたが震えて動いているのがわかる。


歯がぎっぎって音たてた。


俺はマジでびびって、大声あげて仲間を呼んだ。


で、代わりに覗かせたわけ。


そしたら、仲間も同じ物が見えて

気分悪かった奴は吐きまくって、

ちょっとしたパニックになった。


すぐに離れた。


そっから、ばててた奴もすげぇ気合い入れて歩いて、

霧はひどかったけど、

予定よりだいぶ早く小屋に着いたと思う。


で、まぁそのまま小屋に連絡して、

遺体は警察が回収。


俺は聴取受けてそんだけ。


まぶたが固く縫われてたと思ったのは、

うじだったのかなぁと思う。


メンバーも俺もその時は絶対に縫われてると思ったけど。

回収した警察からは身元不明の頭骨ってだけ言われた。


絶対にそんな事はなかった。


あれは肉がしっかりついた頭部だった。


今でもあそこを通るときは雨か霧にやられる。


もう、あまり恐怖心はないけど、

覗き込んでしまった、あの顔だけは忘れない。