昔住んでたとこの近所に、廃墟があった。


なんつーか、小高い丘に小さな森があって、

車一台がやっとの道を登っていくと、

ポッカリ空いた平地に一軒家が建ってた。


空き家になってから数年しか経ってない様子で、

二階まで上がることもできた。


昔は神隠しに遭ったんだと勝手に信じてたが

今思えば夜逃げだ。


何回も行くうちに、

時には白黒の集合写真やら外人の写った写真がばら蒔かれてたり、

時には社交ダンスで着るようなドレスが散らばってたりして、

怖いながらも飽きることはなかった。


ある日、俺とツレ二人は

廃墟の近くに住む奴の家に泊まりに行った。


晩飯をご馳走になった後、

ツレの一人が


「夜の廃墟に行ってみないか」


と話を持ちかけてきた。


昼しか行ったことのない俺達は、

興味津々でスグに頷いた。


家の人には皆でコンビニに行ってくると残し、

懐中電灯を持って出掛けた。


夜の8時とは言え、

暗いだけで昼とは別格の不気味さをかもす空間に、

俺達は尻込みした。


懐中電灯の光を動かすたびに、

得体の知れない何かが照らし出されるような気がして、

気が気じゃなかった。


「ど、どうする、帰るか?」


その一言に誰も異論はなく、

俺達はゆっくりと後退りを始めた時、

遠くに聞こえていた甲高い原付の音が

こちらに向かって来ていることに気づいた。


意味もなくふかしたエンジン音がやってくる。


ガキにとっては、

幽霊も怖いがヤンキーも怖い。


俺達は皆で森に隠れた。


すぐに趣味の悪い改造をした二台の原付がやってきた。


俺達には気付くことなく通りすぎ、

家の前に原付を停めた。


片方に二人乗っていて、

計三人のヤンキーが口々に


「うひょーコエー!」

「マジヤベー!」


と笑いながら家の中に入って行った。


今がチャンスとばかりに

俺達はゆっくりと森を出て坂道へ向かう。


バレてないか何度も廃墟を確認しながら忍び足で進んでると、

二階に上がったヤンキー達の後ろに

おかしなモノがあることに気づいた。


前の奴も小さく


「えっ…」


と呟く。


一人のヤンキーの後ろに白い煙があった。


タバコの煙などではなく、

しっかりと人の形をしていた。


それがピッタリと背中に張り付いていた。


次第に腕のようなものがはえてきて、

ギャハハと笑っているヤンキーの首に巻き付いていった。


そこまで見ると、

俺は怖くなって走り出した。


他の奴等も黙って追いかけてきた。


後ろからは相変わらず品のない笑い声が響いていたので、

ヤンキーに気づかれることなく森を抜けられたようだった。


「みみみ見たか?」

「見た、見た」


「な、何だよあれ!」

「わかんねーよ!」


俺達は口々に話しながらコンビニまで走った。


ビクつきながらも変な興奮状態の俺達は、

コンビニでしばらくさっきの煙について話していた。


結論は「たぶん幽霊」で話がまとまった時に、

原付の音がしてさっきのヤンキー達がコンビニにやってきた。


俺達はコソコソと退散する。


その時見ちゃったんだ。


煙のヤンキーの首に、

はっきりと赤い手形が付いていたことを。


それ以来俺達の間では廃墟の話はタブーになった。


時折、あのヤンキーはどうなったんだろうって思い出す。