私がまだ小学生の頃。正月に広島にある祖父の家に行きました。


そこで私は熱を出して寝込んでしまったのです。


和室の真ん中に布団を敷いてもらって、うつらうつら。


目が覚めると、夕方でした。


隣の部屋に通じる襖に、冬の淡い日差しが薄赤く映えています。


と、その襖がするすると開きはじめ、二十センチ程の隙間に女の子の顔が現れました。

髪を坊主にした女の子。


私をじっと見下ろしています。


襖の向こうは真っ暗で、そこに浮かび上がる白い顔は能面のようでした。


「まひるが呼んでるよ。」


その子が口を開きました。


まひるというのは僕より二つ年下の従兄弟で、確か東京に住んでいました。

(まひるちゃん来ているんだ……)


発熱で朦朧とした頭でそんなことを考え、女の子に聞き返しました。


「どこで?」

「井戸の中。」

(井戸?)


確かに祖父の家には井戸がありました。


でも、そんなところで…


「そんなところで何してるの?」

「知らない。もうだめかもね。」


その子が表情一つ替えずにそんなことを言いました。


その後眠りに落ちたのでしょうか、私の記憶はここで途切れています。


一月ほど経ったある日、母親からまひるちゃんが死んだと聞かされました。


冬休み中に用水路に落ちて水死したそうです。