俺がまだ小学校6年生だった頃の話。


当時、まだ曾婆ちゃんが生きている頃で

(確か100歳は超えていたと思う)

曾婆ちゃんが生きているうちに、

曾婆ちゃんを俺に見せたいということで

親戚一同で奄美大島に遊びに行くことになった。


俺が住んでいる沖縄本島から奄美大島まで

フェリーで半日ほどかかり、

フェリーの中で夜を過ごすことになっていた。


出だしは良かったんだけど、

なにせ同年代のいとこなどが居なく、

暇な時間はもっぱら船の上から見える魚や、

珊瑚などを眺めていたんだよね・・・


そして、夜になり、

ほかの乗客も寝静まりだした頃(大体午前1時ごろ)、

急にトイレに行きたくなって

仕方なく少し遠くにあるトイレまで移動することに・・・


ちなみに、フェリーは客室を2つに分けていて、

客室間の移動は一度海が見える甲板に出ないといけないという構造だった。

(客室といっても大広間で皆さん雑魚寝)


図:船の構造

<A客室|甲板|B客室>


夜中ということもあり、

少々おびえながらも急ぎ足でA客室のドアを開け、

トイレのあるB客室へ向かったんだけど、

消灯時間も過ぎていて、電気はほとんどついてなく、

B客室の入り口のランプのみがついているような状況。


おどおどしながら進んでいると、

甲板の電話ボックス?(人一人が入れるようなボックス)の薄暗い明かりの中に

女が一人こちらに背を向けて立ってた。


人が居るだけならまだよかったんだけど、

一目見ただけでそれがなにか違うモノだということを

直感?感覚的なもので感じた。


しかし、抑えきれない尿意を果たすため

仕方なくその女の横を通り過ぎることに・・・


「絶対に目を合わせてはいけない・・・」


そう思ったんだけど、

どうしても気になってしまい

横目でその女を確認してしまった・・・


そのときに分かったんだけど、

女はなにか病的ともいえるようなつぎはぎだらけの服を着て、

ぼさぼさの髪だった。


その異常な風貌が俺の恐怖心をさらにかきたて、

一刻も早くこの場をさりたいと思わせ、

さらに、女は腕にはぼろぼろのフランス人形を抱え、

人形に化粧を施しながら、なにやらしきりに


「・・・ちゃん、可愛いね・・・」


と独り言・・・


「絶対に気づくな・・・・」


心底そう思いながら

女の横を通り過ぎようとしたんだけど、

通り際にこちらを向き始める始末。


即座に視線を元に戻し、

B客室の入り口へ一直線へ向かい、

半ば泣きながら用を足した。


B客室で寝ようとも思ったんだけど、

さすがにそういう気にはなれず、

仕方なく先ほど来た道を戻ることに・・・


意を決してB客室のドアを開け

女のほうは絶対に見ないように足を進める。


(人間は、本当に怖いときは走るのではなく、

追われないように早歩きで逃げる、

という行為をするというのを分かったのも

このときが初めてw)


早歩きで女を見ないように進んでいたが、

痛いほど女の視線がこちらに突き刺さる。


ちかくに寄れば寄るほど

女が先ほどにもまして独り言を早口で言っているのがわかった。


横を通り過ぎるときに

ようやく少し聞き取れたんだけど・・・


「あの子はわるいこ・・・あの子はわるいこ」


と早口で言ってた。


今にも泣き出しそうになりながらも

どうにかA客室に到着し、

親戚に抱きつきながら眠れぬ夜を過ごした。


次の日、あの女にまた会わないか心配で

フェリーを誰よりも早く降りたんだけど、

なぜかどうしても気になり、

フェリーから降りてくる乗客をすべて確認してみた。


乗客の中にあの女はいませんでした・・・