俺が小6の頃の話。


その日は露の時期特有の大雨の日で、朝からずっと雨だった。


夜になっても雨は止まず、テレビでは警報なんかも発令されていた。


俺の家は割と低い土地に建っていて、近くには川もあったので、

心配になった母親が、近くの高台にあるスーパーの駐車場まで

車を置きに行くことにした。


俺と母親とまだ幼稚園生の妹3人でスーパーの駐車場まで行き、

無事車を置いてから、親子3人で傘を差しながら家迄帰っていた。


バケツの水をひっくり返した様な雨で、妹は母と、俺は

一人で傘を差して歩きにくい家路を急いでいた。


すると前から一人の人が傘を差し、俯きながら歩いてくる。


よく見るとその人は真っ赤な傘を差し、

白いワンピースを着た髪の長い女の人だった。


夜も大分遅かったし、普段あまり人通りも多くない道。


そもそもこの大雨である。


俺らの他にもこんな日に出歩く人がいるんだなぁ。


と不思議に思いながらも、その人からなんとなく目が離せないでいた。


だんだん俺らとの距離が縮まってくる・・・・。


これでもかって位真っ赤な傘。


辺りにはあまり明かりがなく、暗かったにも関わらず、

その人の傘は異様なほど赤く光っていた。


その人が着ていた

白いワンピースとのコントラストも相まって、

不気味な感じさえ受けた。


更に奇妙だったのは、その人の足元も

白いワンピースの肩口も全く濡れていない。


俺らは傘を差しているとは言え、

さすがに服も靴もぐしょぐしょで、


母も妹も肩口から髪にかけて水滴が伝っていた。


一方女の人はと言うと・・・全く濡れていない・・・。


ストレートの長い髪がサラサラとしている。


俯いているため相変わらずその表情は見えないが、

距離が近づいてくるにつれ、

俺も母も段々と嫌な感じがしてきた。


俺「ねぇ・・・あの人・・・。」


母「うん・・。なんか変だね。」


俺の家系は霊感持ちが多く、母はかなり霊感が強かった。


俺も小さい頃から少なからず嫌な体験をしてきていたので、

そういった空気と言うか雰囲気がなんとなく分かった。


俺「なるべく見ないようにして通り過ぎよう・・・。」


母「そうね・・・。(妹の名)も見ないようにね・・・。」


等と小声で話しながら足を速めた。


速足の俺ら。


女の人は相変わらず俯いたまま、

滑るようにゆっくり向こうから歩いてくる。


そしていよいよお互いすれ違うその時、

俺も母もなんとも言えない寒気と言うか、

悪寒と言うか、上手く言葉に出来ないが

とてつもなく嫌な感覚に襲われた。


と同時に、


「ぎゃーーーーーーーっっっ!!!!」


突然母に手を引かれていた妹が

金切り声を上げて泣き出した。


俺は訳が分からず呆気に取られていると、

いきなり母が俺の腕を掴み、妹を抱えて土砂降りの雨の中走り出した。


そのまま家の玄関に転がり込む様にして帰り着いた俺ら。


どうしたの?と尋ねる俺に母は息を切らしながら、


「あ、あの人・・・普通じゃない!人間じゃなかった・・・。」


気丈な人で、胆の据わった母には珍しい取り乱し様に、

俺は只々言葉を失っていた。


妹は大分落ち着いた様子だったが、

その後も何度か何かを思い出した様に突然泣き出し、

その日は結局泣き疲れて寝てしまった。


妹が眠りに着き、改めて何があったのか問いただした俺に母は、


「私たちからは見えなかったけど、(妹の名前)は傘の下から俯いた

あの女の人の顔をみちゃったんだよ・・・。だから泣き出したのよきっと。

それにあのひと・・・私たちとすれ違った後すぐ曲がったんだけど、

あんなとこに道無かったじゃない・・・?

あそこには家が何軒か建ってて隙間なんか殆ど無かったし・・・・」


あの時俺は突然泣き出した妹に気を取られて、

その後の女の人を見ていなかったのだが、

母は通り過ぎた後の女の人を見ていたらしく、

一部始終を見た後、とてつもない恐怖に襲われて

その場から一秒でも早く離れたい!と思ったそうだ。


後日母と一緒に、スーパーに停めた車を取りに行った帰り、

女の人が曲がったと言う所を確かめたが、

そこには二軒の家が建っているだけで、

隙間などは30cmも無かった様に思う。


それを確かめて、母と俺は改めて背筋がゾッとして、

そそくさとその場を離れた。


妹は次の日に熱を出して寝込み、

後になってあの日のことを尋ねても

全く覚えていないと言う。


そして、これは俺が中学になってから分かった事だが、

俺らが恐怖体験をしたあの大雨の日、忘れもしない6月の26日。


その日は丁度数十年前の同じ日に、記録的な豪雨による川の氾濫で、

俺の地元では何百人もの犠牲者が出た大水害が起きた日と、

全く同じ日だったのである・・・。