スイミングスクールに通っていた

小学五年生くらいの今ぐらいの季節の話。


学校が終わり、いつものように友達と

お迎えのバスに乗ってプールへ。


最初にみんなで体操をするんだけど、

そのときにいつもと違うことに気づいた。


練習を見守る父兄の中に、

なにやら浮いた存在の女性がいる。


見た感じ三十代後半、

肩までの黒髪でソバージュ、

でかいイヤリング。


なにより、切れ長の目と、

真っ赤な口紅、真っ白で無表情な顔が怖かった。


「うはw誰の母ちゃんだよwテラコワスww」


的なことを友達Aと言い合いながら練習が終わり、

さっさと着替え、自販機コーナーで

あったかいミロを飲みながら帰りのバスを待っていると、

Aがおれに話しかけてきた。


「さっきの口紅のヤツ、M(おれ)のことずっと見てっぞ」


そっちを見ると、目が合った。


「お、おれ知らねーよ!

あの(同じ級の)デブ女の母ちゃんだろ!」


とか適当にごまかしつつも、

チビリそうなくらい目が怖かった。


そんなこんなでバスの時間になり、

特等席の一番後ろにみんなで座って出発を待ってた時。

窓側にいたAが、突然小さい声で言った。


「おいM!あれホントにデブ女の母ちゃんか?あそこにいる!」


指さした先には、

入り口付近からこっちをじっと見ている口紅の人がいた。


その時にはもう他の方面へのバスは出ていたので、

おれらと逆方面に住んでるデブ女の母ちゃんではないはず…。


じゃあ誰?と思ったが、そんなことより

Jリーグカードの話に夢中になっていた。


近くの大通りまでバスに揺られ、

そこでみんなと別れて自転車で帰った。


家に着いて飯食ってフロ入って寝る時間。


口紅の人のことも忘れかけていた。


兄弟三人川の字で布団に入ってたんだけど、

両隣の兄と弟はもう寝ていた。


足の方向に、ふすまを隔てて両親が寝ている。


豆電球のオレンジ色の中で、

そのふすまの上のらんまを眺めていた。


聞こえるのは寝息だけ。


ウトウトしかけたとき、

ふすまの方から女の人の囁きが聞こえた。


「も…す………、……しゅ…………に…」


うっすら目を開けると、

らんまの奥に赤いのと白いのが目に入った。


無表情でおれを見下ろしている、

口紅の人だった。


「…!!」


「も…す…し…、……しゅ…………に…」


恐ろしくて恐ろしくて、

目をつぶれない、動けない、叫べない。


「も…す…し…、……しゅ…すだ…に…」


ふすまが少しずつ開いてきた。


「も…すこし…、せ…しゅ…すだ…に…」


声だけが近づいてくる。


ぅぅぅぁぁあ阿あ唖h亞ちょfjdわwgふじこ!!


やっと叫ぶと、家族全員起きだし、

気づいたら口紅の人は消えていた。


夢でも見たんだ。


迷惑なヤツめ。


みたいなことを言われ、怖くて眠れなかったが

それ以降は何も起こらなかった。


それ以来、その口紅の人が怖くて、

時代はサッカーだと友達に言い訳してプールをやめた。


以下、プール友達経由で聞いた話。


口紅の人を見る前の回に行われた進級テストで、

おれとAが選手クラスに合格していたが、

Aも結果を知る前に突然プールを辞めた。


通う曜日は違うが、同じ級で、

プールに直接来る途中に母親と交通事故で

亡くなった男の子がいた。


その母親はすごく熱心だった。


Aとは違う小学校だったので推測だけど、

その母親が合格したおれとAのところに現れたんだと思う。