小学生のときのことです


うちの蔵で遊んでいると、

雑多な物入れ箱の中から狐のお面が出てきた


俺はそれを使って一発芸をやろうと思ったのだが、

友達Aに先を越された


だが、お面を被ったAの様子がおかしい


なにかむごむごいいながら、

両手をつきだしてフラフラしている


最初こそ、ネタかと思い笑っていたのだが、

こちらの声かけに反応しないAに本能的に怖くなり、

お面を無理やり外した


Aの目はうつろで、

気を失っているようで、

俺はすぐに母に助けを求めた


母は元麻酔の医者で、

何をしたのかはわからないが、

てきぱきと処置をして、

すぐにAは意識を取り戻した


Aの話によると、

お面を見た瞬間、

どうしても被りたい衝動にかられたという


お面を被ると同時にパッと明るい光が見え、

すぐに森のような景色が見えた


そこでは兵隊がたくさんおり、

かしこまった態度で

Aによくわからないことを話しかけてきたという


何やらだれか偉い人に対するような言葉遣いだったとか

兵隊たちは一人一人それぞれ何か言うと、

全員で気合いを入れるような大声をあげ、

走っていってしまった


残った兵隊もAに対しなにか問いかけてきたが、

よくわからなかったという


そんなことを見ているうちに、

突然腹に熱感を感じ、

すぐさま痛みが襲ってきた


兵隊と女性が二人で励ましの言葉をかけながら、

手当てをしてくれている途中で目が覚めたという


腹の痛みや熱感、

じめじめとした空気をしっかりと覚えているとのこと


お面の詳細はわからない


報告を受けた親父が、

気味悪がって

その日のうちにどこかに捨ててきてしまった


Aにその後異常はなく、

互いに元気に過ごしている


飲んでいると未だにその話題は出るが、

Aと日本の戦争映画を観ているとき、

あのときの連中はもっともっと汚かったぞ、

と苦言を呈してたのをよく覚えている