中学の頃にあった奇妙で怖かった体験。


実際にあった話で誇張とかは無い。


中学1年の頃、俺はテニス部に所属していた。


夕暮れになり

帰り支度をしているとAに


「うちに来ないか?」


と声をかけられた。


俺は夕方のアニメを見るのが日課だったから

正直鬱陶しいなと思ったが、

根負けして遊びに行くことにした。


A宅でスーファミのぷよぷよで遊んだり、

飯はカレーをご馳走してもらった。


飯食ってる時にAのお姉さん(当時大学生)と話したが、

この人はかなりのオカルトマニアで、

俺がたまたま知ってた稲川淳二の話を切り出すと

物凄い勢いで乗ってきた。


「これから心霊スポットへ行こう」


という急な話になり、

明日は日曜だしいいだろうという事で、

三人で国道沿い付近にある廃ホテルへお姉さんの車で向かった。


Aは大の怖がりで終始


「俺は絶対中に入らないからな!」


とずっとキレていたのを憶えてる。


目的地に着くと、

車をホテルの敷地内に停めた。


辺りは真っ暗で、

駐車場では違法駐車なのか廃車なのか分からない車が停車していた。


草木もぼうぼう生えていて、

謎の触手があったりと不気味な雰囲気を醸し出していた。


Aは


「俺は車に残る!」


と自ら死亡フラグを立てていたが、

お姉さんに


「一人でいると霊が来やすいよ」


と脅されると


「クァwsでrftgyふじこlp;@:!!!!」


と大慌てで付いて来た。


窓ガラスは割れ放題で、

懐中電灯以外の灯りは一切無いので、

中は漆黒の闇だった。


ロビーらしき広い場所へ着いた時、

俺もAもビビリすぎて今にも泣きそうだったが

お姉さんは


「二階へ行こう。階段はどこだ?」


と無茶な事を言う。


お姉さんを先頭にフロアを徘徊してると、

急にガタッ!と何か硬い物が落ちる様な音がした。


三人で肩をすくみ

『びくっ!』として一瞬時が止まる。


俺とAが


「もう帰ろうよ……」


と哀願するが、尽く却下された。


真っ暗闇の中ようやく階段を見つけると、

そこには机や棚らしき家具で封鎖されていた。


(よかった、これで帰れる……)

と心の中でホッと胸を撫で下ろすと、

お姉さんは


「通れないんじゃ仕方ないな……」


と呟き、

何気なしに階段の踊り場付近をライトで照らした。


その時だった。


黒い人影が右から左へ

すばやい動きで通ったのが見えた。


Aはほとんど俯いていた為

気付かなかったみたいだが、

お姉さんはしっかり見ていたようで、

さすがの彼女も『びくっ!!!』とし、

半歩下がっていた。


明らかに照明によって出来た影ではないと確信しながら、

黒い人影が消えた辺りのU字に曲がった階段を見ていると、

何者かの視線を感じた。


そこには人間の様な全身真っ黒な者が

「ニタァ」と笑っていた。


「うわああああああああああああああああ!!!!」


お姉さんが叫んだ後

一目散に逃げ出した。


俺は一瞬、恐怖で頭が混乱して腰が抜け、

悲鳴を上げる事すら出来なかった。


尻餅をつきそうになったが、

懐中電灯を持っているのは一人しかいないので

夢中でAとお姉さんの後を追った。


外へ出ても三人とも駐車場まで猛ダッシュだった。


一旦息を整えて、

三人固まって車まで早歩きで向かうと、

近くで停車していた廃車のエンジン音が唸りを上げた。


ヘッドライトが、

老朽寸前の蛍光灯みたいにチカチカと奇妙な点灯をしていた。


「────!!!」


身体が縮こまるよりも先に

無心で車まで走った。


車に着き、

お姉さんは石原裕次郎の如く一連の動作で

豪快に運転席に乗り込むと、

キーを挿しエンジンをかけた。


B級映画の様にエンジンがかからないという事はなく、

すぐに発進出来た。


俺は


「早くこの場から離れたい!」


と心の中で連呼した。


そして車がホテルの敷地内を出ようとする時、

Aが覚えたての英語で


「Hurry up!!Hurry up!! GO!!GO!!!」


と叫んでいた。


国道の流れに乗って一安心したが、

全員無言だった。


家まで送ってくれるとの事だったが、

恐怖心が抜けなかったのと

その後語り合いたかったという事もあって、

その日は無理を言ってA宅に泊めてもらった。


そんなこんなで終わり。

自殺者がいたとかの裏話は知らないが本気で怖かった。


ちなみにあれは見間違いとかでは絶対ない。