盆に里帰りした時の話


俺の実家は故郷を語れるほどの田舎ではないが

町の中心からは随分離れているので

周囲には畑や田んぼ、山が目立つ


街灯も殆ど無いので、

夜になり点在する家の明かりが消えれば

ほぼ真っ暗になってしまうような所


そんな実家から車で10分の距離に

自殺の名所的なものがある


東西に1km程伸びる片側一車線の道路だが、

西の端がT字路になっている


T字路の先は山で、

その手前は高さ4,5m程、

横は数十mに渡って

コンクリートブロックで固められている


東から西のT字路に向かって車で突っ走り、

そのままコンクリートの壁に突っ込む


それはもう車が炎上するくらいの猛スピードで


名所と呼ばれる所以は、

ここ7年の間に俺が把握してるだけでも

5人以上がそうやって亡くなっているから


なんせ余りにも車が突っ込むため、

そのT字路には後から街灯が設置された


更には高速道路に置いてあるようなドラム缶大のパイロンが

コンクリート壁に沿って無数に並べられている


地面には太陽光を蓄電する発光機が埋め込まれおり、

夜になるとチカチカと赤く明滅する


真っ黒な闇の中、

そのT字路だけがトンネル内に設置された

オレンジ色のナトリウムランプのような街灯でぼんやり浮かんでいる様は

その背景を知らない人間の目にも異常と映るのは間違いない


で、実家に帰省した日の夜、

時間は0:30を過ぎてただろうか


お茶が欲しくなったのでコンビニへ向かい、

その帰り道


ふとその場所の事を思い出し、

何の気無しに近場を通ってみようと思った


帰宅するのに5分ほど遠回りになるだけだし

久し振りの帰省なので懐かしい気持ちも手伝い、

色んな道を通ってみたくなったのだと思う


その帰り道は南から北に伸びており、

T字路から東へ50m程のところにある交差点に繋がり、

更にそこから北へと突っ切っている


周囲には家が無く、

田んぼばかりで見晴らしがいいため

左手を見ていればそのT字路も視界に入ることになる


コンビニを出て5分ほど車を走らせただろうか


数百m先、遥か前方の左手、

見覚えのある鈍いオレンジ色の光が目に入る


相変わらず、闇の中


ただそこだけがぼんやりと浮かび上がっている異様な光景


そして車が交差点に近づくにつれ、

T字路の様子も徐々に明確となってくる


地面には赤く明滅する発光機、

無数に並べられた大きなパイロン、

記憶の中のままだ


ちらちらと視界の左端にT字路を捉えながら、

やがて車は交差点に差し掛かかる


交差点には信号が無く、

自分側が一時停止をする


見晴らしがいいため

他の車が来ていないことは分かっているが、

そこは日々の習慣


標識に従い

自然と俺は一時停止した


軽く左右を確認する


右・・車無し


左・・


50m先のT字路が一瞬視界に入る


車無し


視線を前方に戻し、

交差点に進入する


交差点を横切る時、

左のT字路方向にもう一度だけ視線を向けた


本当に、

最後に・・なんと無くであったのだが


それが間違いだった


人がいた


4人


道のど真ん中、

並んでこっちを見ていた


交差点は渡り切ったが

頭が真っ白になった


・・え?何?人?何で?


思考力の無くなった頭で、

しきりに今見た光景の理由を捻り出そうとする


こんな夜中に人?


周辺に家は無いし

停まっている車も無いのに?


いや、

そもそも一時停止した時に一度T字路は見ているが

誰もいなかったはず??


運転しながら俺の視線は前方を向いてはいるが、

見ているものは違った


見たのは一瞬だったが、

あの光景は目にはっきりと焼きついている


表情や服装までは分からない


後方にオレンジ色の街灯があったので

黒いシルエット状になっていたから


しかし、

それは容易に人と判別のつく形状であり、

全員がこちらを向いていたのは

何となく雰囲気で分かった


一人のシルエットの輪郭に違和感も覚えた


首の部分に括れが無かったのだ


ああ、なんだ、そうか、そうだよ


一人は髪が肩より長い女性か


妙に納得した次の瞬間、

全てを理解し全身に鳥肌が立ち、

嫌な汗も吹き出た


交差点を渡ってから

そこまで5秒やそこらだったと思う


人間なわけねーよ


だって、

今、小降りとは言え雨も降ってるんだから・・


家に帰るまでは気が気では無かった


バックミラーどころかサイドミラーすら見れない


もう一度、

あの4つのシルエットが視界に入ったら

電柱なり畑なりに突っ込む自信があった


ただ、前方のみを見つめて運転した


家に戻り、

自分の部屋がある離れに駆け込んだ後も


あれを連れ帰ったりはしていないだろうか?

これから追ってきやしないか?


と、

一晩中生きた心地がしなかったのを覚えている


まあ結局は、

あれから何事も無く無事に過ごせている


俺が思うに、

偶々波長が合ってしまうってことって

誰にでもあるんじゃないかと


コンビニの帰りにあの付近を通ろうと、

ふと思いついた時点で

既に波長が合いだしていたのかも知れない


あの時、

T字路に向って東から進んでいたらと思うと

想像するだにぞっとする


お前らも自分が普段とは違う思考してることに気がついた時は気をつけろよ


何か別の存在に感化されてるのかもよ



そうそう、

何で三年も前の話を今更する気になったか

不思議に思った奴もいるんじゃないか?


勿論理由はある


今年の盆に帰省した時の話だ


夕飯食ってた時に思い出したかのように発したお袋の一言が

俺を蒼白にさせた


「そう言えば、数年前からこの時期になると、

夜のうちに結構な量の足跡が花壇にできてたりするのよねー」