僕の名前は【綿 保(めん たもつ)】

小さい頃から周りの子よりも勉強が出来、先生からの評判は常に高かった。

父親は個人病院を経営していて、遅くまで仕事や【遊び】で帰って来ない日も多い。

母親は、いわゆる【教育ママ】で、良い小学校に入るために幼稚園の頃から勉強をさせられた。

そのおかげで、僕は某有名私立小学校に入る事が出来た。

そして始まったんだ・・・。

・・・地獄の小学校生活が・・・。

僕のクラスは1年2組。

私立の小学校という事もあり、周りはマジメそうな子が多かった。

でも、やっぱりどんなところでも居るもんだ。

【仕切りたがり屋】という存在は・・・。

皆がクラスの雰囲気にもなれてきた頃、

ソイツは僕に目を付けたんだ・・・。

始めは軽いチョッカイ程度だった。

ソイツの通り道に僕が立っていると、「ジャマだからどけよ。」と言って押しのけてきたり、

椅子に座ろうとするとイスを引いて僕をこかそうとしたり、

後ろから急に突き飛ばしたり。

 ソイツは僕にちょっかいをかけるといつもゲラゲラと笑っていたよ。

今でも僕はソイツの笑い顔を思い出すと嫌な気分になる。

 入学して一ヶ月くらい経つと、ソイツは数人の仲間とつるむようになった。

ソイツは体も大きかったし、多少わがままを言っても皆反論できないような存在だった。

多分皆【安全なポジション】に入りたかったんだろうね。

 体が小さく、キャシャな僕は思いっきりターゲットにされたよ。

【危険なポジション真っ只中】って所かな・・・。

そんな危険なポジションに進んで入ってくる人間なんて居ると思うかい?

漫画やお話の世界でそういうキャラもいるみたいだけど、あんなのキレイ事だよね。

ソイツが僕にチョッカイをかけてきても

誰一人、僕を助けようとはしなかったよ。

次のターゲットが【自分】になるのが怖いんだねきっと。

正直僕が第三者だったとしても、わざわざ危険を冒してまで助けないと思うよ・・・。

 1学期が終わる頃にはクラスで僕に声をかける子なんて一人も居なくなった。

僕は独りで授業を受け、休み時間は一人いじめられた。

朝学校に行くと、僕の机だけポツンと教室の後ろの方に追いやられたりもした。

皆から『バイキン』と言われ、僕や僕の机に触れたらそれを払い落とすような仕草をされたりもした。

・・・でも僕は何も言い返さなかった。

いや、言い返せなかったんだねきっと。

言い返して、もっとヒドイ目に合うのが怖いんだよ。

僕はだから我慢した。

休み時間にソイツがかけてくるプロレス技も我慢して受けた。

ある日階段から突き落とされた。

丁度先生がそれを見ていて駆け寄ってきた。

ソイツは泣いて僕に謝った。

先生はソイツを一言二言注意した。

僕は不運にも、数箇所の打撲で済んでしまった。

どうせなら骨がいっぱい折れてくれたらよかったのにって思ったよ。

そしたら学校を休めるから・・・。

先生は親に、「遊んでいて階段から落ちた。」と報告した。

僕は親に「気をつけないとダメでしょ!」と怒られた。

痛い思いをして、親にまで怒られたんだ。

次の日、ソイツは朝1番に僕の元にやってきて、こう言った。

「あのくらいで落ちるなよ、グズ。」って。


夏休みの間は天国だった。

ソイツに会わなくて済む。

でも、そんな夏休みはあっという間に過ぎ去り、僕はまた地獄の学校に登校する。

 二学期になったらターゲットが変わっていないだろうかという願いも虚しく、

ソイツのいじめは相変わらず僕に対して続けられた。

ソイツは巧妙で、大人にバレないように【見張り役】というポジションの人間を作った。

大人の目の届かないところで、僕は毎日殴られた。



夏休みの工作で、僕はマッチ棒をボンドで繋げて大きな橋を作って持って行った。

とても良い自慢の作品だった。

先生も、「わぁ。ステキ」と褒めてくれたんだ。


ソイツは笑いながら、休み時間ソレに火を着けた。

あっという間に燃え尽きる僕の作品を、ソイツはあの嫌な笑顔で眺めていた。

先生が来た時、ソイツはまた泣いた。

「紙やすりでこすったら燃えてしまいました。」と言った。

先生はソイツに注意し、僕を慰めた。

一生懸命作ったものが無くなってしまったのは悲しいけど、

これで先生がいじめから助けてくれるんなら・・・。

そんな風に思っていた。

 帰り際のHRの時間。

先生は皆に言った。

「次からは、危ないので燃えるような工作は作らないで下さいと、校長先生から言われました。気をつけて下ね~。」

ソイツは僕にだけ見えるように顔を向け、ニヤリと笑った。

月日は流れた。

二年の終わり。

いじめはずっと続いていた。

でも僕は耐えた。

仮病で学校を休むなんて事は許してくれない両親。

三年になったらクラス変え。

ソイツと離れられる・・・かもしれない。

クラスは5クラスあった。

次に同じクラスになるのは、今同じクラスの5人に1人。

つまり5人に4人は別のクラスになる。

・・・まさか、ソイツと同じクラスは無いだろう・・・。

そのまさかだった。

僕に対するいじめは更に二年続いた。

体もだんだん大きくなり、いじめの内容もそれに伴いエスカレートしていった。

筆箱は常にポケットに入れるようになった。

トイレに行ってる間に、シャーペンを折られたり、ケシゴムをちぎられたりするからだ。

親も、アテにならなかった。

ソイツがちょっかいをかけてくる事を1度親に相談したことがあった。

「保に原因があるからちょっかいかけてくるんじゃないのか?」

「何度言っても聞かない相手にはやりかえしてやらないとダメだぞ!」

親は僕を励ますばかりで、何もしてくれなかった。

だから僕は我慢するしかなかった。

我慢し続ける事しか。

逃げる事も許されない。

ただただ、辛い学校に無理やり押し出され、そこで辛い時間が過ぎ去るのを待つだけ。

より辛い事態になる事に脅えながら、僕は耐えたんだ。

月日は流れ、僕は六年生になった。

父親の経営する病院が、新しい所に移る為、小学校卒業と同時に引っ越す事になった。

だから今行ってるエスカレーター式の学校とは別の中学を受験する事になった。

僕は頑張って勉強した。

がんばってがんばって、一生懸命に勉強した。

もし落ちて、またソイツと同じ学校に行く事になるなんて絶対に嫌だったからだ。

そして、

僕は、

失敗した。

落ちたんだ。

お母さんは大激怒した。

「努力が足りなかったのよ!」と言って頬を殴られた。

 もう死のうかなと、ふと思った。

でも、実際その勇気は無く、晩御飯の時もその日はずっとうつむきながら食べた。

母さんも、不機嫌で口を聞いてくれない。

僕がしょんぼりして部屋に戻った時、父さんが部屋に入ってきた。

父さんは静かに一言、

「・・・良い高校に行って、良い大学に行けばいくらでも取り返せる。

公立の中学に行って、一生懸命勉強しなさい。」

と言って部屋を出て行った。

僕はそこでハっとしたんだ。

何も、受験に落ちたからと言って、あの学校から転校できる事には変わりない。

ソイツと離れる事は出来るんだ。

僕の心が青空のように明るくなった気がした。

僕は残りの小学生活を耐えた。

卒業 引越し 転校。

やった!

ソイツと離れる事が出来た。

これで、幸せな生活がやってくる。

 公立の中学に入り、入学式が済み自分の教室に入る。

・・・生徒の名前が書いてある紙を見る。

・・・ソイツは・・・居ない!

居るわけが無いな・・・。他府県に引越したんだから。

 『もしかしたら』の可能性も0になり、僕の心は凄く軽くなった。

こうして僕は幸せな生活を手に入れることが出来た。

・・・と思った。

甘かった。

「オイ、お前、パン買ってこいや。」

柄の悪そうな生徒が言う。

・・・断れなかった。

僕はその日から、その柄の悪そうな生徒にパシリとして使われるようになってしまった。

・・・どうして僕なんだろう?

僕が何をしたって言うんだろう?

僕は他の皆よりも体が細い。

身長も小柄。

色も白い。

見るからに弱そうだ。

だから目をつけられてしまうのだろうか・・・。

 柄の悪そうなその生徒は、仲間を呼んで裏庭で僕をいじめるようになった。

休み時間、放課後、・・・帰宅後に呼び出されてまでも・・・。

 僕の体には無数の痣が出来た。

中学のいじめは、小学校のものよりも少しバリエーションに飛んでいて、

殴る蹴る以外にも色んな事をされた。

上履きの中に画鋲が入っていないかを確認するのは日課になったし、

【はんだ付け溶接】のコテを休み時間おもいっきり足にこすり付けられた事もあった。

ソイツラはそれを見て、僕のリアクションを見て笑う。

・・・さすがに耐えられなくなってきた。

よくテレビで報道している【自殺】

自分にはまったく関係の無い事だと思っていたけれど、

僕が逃げられる所はどこにも無いと感じた。

【ソイツ】からやっと逃げられたのに、また新しい人間にいじめられる事になった。

僕はきっと、どこに行っても誰かにいじめられるんだろう。

もう嫌になった。

 放課後。

僕をいじめる生徒が休んだ日、

僕は学校の屋上に立った。

下を見ると、かなりの高さだった。

僕は、本当に意気地なしだと思う。

やっぱり怖かったんだ。

飛び降りる勇気なんて無かった。

きっとこの勇気の無さに付け込まれて、僕はいじめられるんだろう。

ダメだなぁ・・。僕って・・・。

家に帰り、僕は泣いた。

「・・・そんなに辛い思いをしてきたんだね・・・。」

「フフ・・・。でも、まあ今となってはもう昔の話ですから。」

「・・・前から言ってるけど・・・敬語、僕には使わなくていいよ・・・。」

「あ・・・す、すいません。ついつい癖なもので・・・。」

「・・・。」

夕暮れの校門の前。

八木鎌司は、姉のパシリ的存在のモヤシ君から、その辛い過去の話を聞いていた。

なぜこんなシュチュエーションになったのかというと、

今から約1時間前、姉の八木鍋衣とモヤシ君は鎌司が部活を終えるのを待っていた。

そして鎌司が部活を終えて、2人が待つ校門のところに行った時だった。

「あ、ちょっとゴメン!2人、学校で待っててくれへんか!? 買うもんあるの忘れとったわ!」

鍋衣はそう言うと、二人の返事も聞かずに【屋敷要】ばりの快速を飛ばしてどこかに行ってしまった。

・・・という事で、鎌司とモヤシ君は2人で鍋衣を待つ事となったのだ。

「・・・それにしてもモヤシ君・・・。姉ちゃん遅いね・・・。」

「そ、そうですねぇ・・・。」

「・・・だから敬語・・・。」

モヤシ君は門の外をチラチラと眺めている。

鍋衣がいつ戻ってくるのかが気になるのだ。

「・・・ところでモヤシ君・・・。」

鎌司が口を開いた。

「な、なんですか?」

「・・・姉ちゃんとは、どうやって絡むようになったの・・・。」

「え、鍋衣さんとですか?本人から聞いたりしてないんですか?」

「・・・そういえば、聞いた事ないね・・・。 

ていうか、姉ちゃんが特定の舎弟を持つ事が珍しいんだ。 だから少し気になってね・・・。」

八木鍋衣は、中学1年にしてその学校を全て仕切ってしまったほどの人物だ。

だが、決して弱い者をいじめるようなタイプでは無い。

より強い者を求め、戦い続ける。

そんなオロチドッポ的なツワモノなのだ。

だからこそ、鎌司は姉が【パシリ】という存在を持った事に疑問を感じていた。

モヤシ君は鎌司が座っている石の横にやってきて座り、

「なるほど。 じゃあ、鎌司君には話しておくよ。

でも、もしかしたら鍋衣さんは話してほしくないのかもしれないから、ナイショにしといてね。」

鎌司は、「・・・うん・・・。」

と答えたが、心の中では(なぜ急に敬語じゃ無くなった・・・。)という思いで一杯だった。

モヤシ君はゆっくりと話しはじめた・・・。

「中学1年の頃。

僕は例の如く、毎日毎日いじめられていたんだ。

そんなある日の事だった。

放課後、学校の帰り道、裏路地のところで三人くらいのヤツらに【いじめ】に遭っている時だった。

ふと、その光景を眺めている女子生徒を見つけたんだ。

それが、鍋衣さんだった。

ヤツらが僕をボコボコにして帰って行った後、鍋衣さんは僕の元に近付いてきたんだ。

手当てでもしてくれるのかな~って思っていたら、違って、

「あのな・・・。見てたらお前、何も抵抗してへんやないか。 やり返さな、いつまでもイジめられるぞ?」

と、昔父親が言っていたのと同じような事を言われたんだ。

結局、僕を助けてくれる人は居ない。

そう思ったね。

僕は鍋衣さんを無視するようにその場を去って帰った。

今ならとてもそんな事は出来ないけどね。

当事はまだ、鍋衣さんがそこまで【凶暴】だという情報が僕には無かったのさ。

それからも、毎日 イジメは続いた。

もちろん、僕は余計にいじめられるのが怖かったから抵抗はしなかった。

一週間くらいが経った頃だった。

ある日の昼休み、僕をいじめる三人組が休みの日、

鍋衣さんが僕の教室に来て、声をかけてきたんだ。

「・・・おい。お前、今日からウチのパシリに任命や。エエな?」

ワケがわからなかった。

正直、(なんで女なんかに・・・。)という反骨心みたいな感情もあった。

僕は返事をしなかった。

アイツらにいじめられるだけでも大変なのに、なんで更に女なんかのパシリもやらなきゃいけないんだと思ったのさ。

「オイ?聞いてるんか?」

鍋衣さんは尚も僕に言う。

僕は少しカチンと来て、

「あのね、僕をパシリにするんだったら、普段僕を使ってる生徒が三人くらいいるから、先にそっちに話つけてくれるかな!」

と、勢いで言い返した。

「おぉ。なんや、お前、実はそんな威勢良い部分もあったんかいな。はっはっは。」

鍋衣さんはそういうとゲラゲラと笑いだし、掃除用具入れのほうへと歩いて行った。

そして掃除用具要れを開けた時、衝撃の光景が目に入った。

なんと、その中には僕を普段いじめるやつら三人が縄でぐるぐる巻きにされ、

口にはガムテープを貼られ、頭はバリカンで丸坊主にされて押し込められていたんだ。

鍋衣さんは涙目のその三人を僕の前まで引きずってきて、口に貼り付けたガムテープを勢い良く剥がした。

「ひぃ~~~。」「か、堪忍してくださいぃ~~~。」

僕をいじめる三人は悲痛な叫びをあげていた。

ポカンと口をあけてソレを見る僕。

鍋衣さんは僕に、

「お前が言うてる三人って、コイツらやろ? 話は今朝付けようとしたんやわ。 ほしたら拒否られてしもうてなぁ。

少し考える時間与えたんやわ。 もっかい聞いてみるから、お前もよう返事聞いといてやぁ。」

鍋衣さんはそういうと、ミノ虫状態のその三人に、

「今日からコイツはウチのパシリや。お前らがもしコイツを使うときはウチに許可とりに来い。エエナ?

もし、無断でウチのパシリにチョッカイかけたら・・・わかってるな?」

もはやその三人はYESと答える事しかできなかったみたいでね。

僕はあっさり、いじめから解放された。

鍋衣さんは、いろいろと僕を使ってパンを買いにいかされたりするけど、

無意味な暴力はふるわない。

あの人はきっと、なんていうか【正義】みたいな感じがする。

・・・まあ、【悪】に対しては武力行使が過ぎる部分はあるけど・・・。

僕は鍋衣さんの身の回りの世話が出来て幸せだと思うよ。

ちなみに、その直後鍋衣さんは

「おい、お前名前は何て言うねん?」

と聞いてきたので、

「は、はい。 綿 保 です。」

と答えたら、

「そうか。ほしたらお前ヒョロヒョロやから、【モヤシ】って呼ぶわ。 わかったな!」

・・・という事で、モヤシと呼ばれるようになったのさ。」

「・・・なるほど・・・。」

鎌司はめずらしく熱く語るモヤシ君に対してうんうんと頷いた。

鎌司は二つ心の中で思った事があった。

まず一つ目は、アダナ付ける理由的に、名前を聞く必要があったのかどうか。

そしてもう一つは、

きっと姉は、姉なりにモヤシ君を助けたかったのだろう。

だが、ただ単に助けても本人の為にはならない。

だから本人に勇気を持って立ち向かってもらおうとした。

だがモヤシ君はそういう事が出来る人間では無かった。

なので仕方なくパシリにするという形でいじめから守られるポジションにしてあげた。

そういう微妙なバランスを姉なりに考えたんだろうと思った。

 「あ、鍋衣さん帰って来た。」

立ち上がるモヤシ君が指さす方を鎌司は見た。

姉が一生懸命に走ってきている。

・・・なにやらでっかい箱を持ち、三人くらいの男子生徒を引き連れて・・・。

 「ゼェゼェ。戻ったで!鎌司!」

「・・・見たらわかるよ・・・。」

鍋衣は大きな箱をドスンとその場に置いた。

そして、「オイ!お前ら、ここ並べ!」と言って、

引き連れてきた男子生徒を並ばせた。

「・・・姉ちゃん、その三人は誰・・・。」

「ん?コイツらか?フフフ。今日から【鍋衣組】はこのメンバーで行く事になったんや。 オイお前ら、自己紹介せい!」

「は、はいっ!」 「ヘイッ!」 「YES!」

(鍋衣組・・・新メンバー・・・。)

鎌司は、また姉がなにやらおかしな事を言いだしたなと思い、彼らの自己紹介を聞こうと耳を向けた。

「鍋衣組、NO.2 【中田 九】 ですっ! 特徴として、やたらと足が速いですっ!」

「鍋衣組、NO・3 【一枝 七郎】でごわす! 特徴として、やたらと力が強いでごわす!」

「鍋衣組、NO・4 【右本 新八】でげす! 特徴として、やたらとエロいでげす!」

「以上が、これからウチの足となり、壁となり、頭脳となる三人や! こいつら、まだ1年やから鍛え甲斐もあるしな!」

鍋衣はそういうと、もってきた大きな箱を持ち上げた。

そしてモヤシにその箱を手渡した。

「な、なんですか?これは・・・。」

戸惑うモヤシ。

「フフフ。モヤシ。今までホンマご苦労やったな。

中学1年の途中から、高校二年になった今まで、ほんまに色々と助かったで。」

「え・・え・・。ど、どういう事ですか?」

「お前は今日でパシリから解放や!今日からお前は自由やで!」

「・・・えーーーーーっ!!!!?」

「ウチはさっきも言うた通り、これからはコイツらにいろいろやってもらうさかいに、気にすんなや。

そのでっかい箱はモヤシの【開放記念品】や。うけとってくれ。」

モヤシはポカンと口を開けて固まっていた。

鍋衣はそんなモヤシの肩を叩き、

「まあ、そんなに固くなる事ないやろぉ。 別に、お別れするワケやあれへんねんから。

これからは、普通の友達として接したらええがな。 な。」

といってニッコリ笑った。

その後、【ナベイーズスリー】は各自帰宅させ、モヤシ、鎌司、鍋衣は途中まで一緒に帰った。

モヤシはもちろん家が別なので、途中から別れ、一人で帰って行った。

 家に帰り着き、鎌司は鍋衣にさっきの事を聞いた。

「・・・姉ちゃん、一体、どういう風の吹き回しだよ・・。モヤシ君を解放なんて発想・・・。」

「ん。モヤシの開放か。まあ・・・な。鎌司、この間言うてたやろ?」

「・・・え。何か言ったっけ・・・。」

「何や、忘れたんかいな・・・。 ほら、モヤシがウチらの高校に来た事やんか。」

「・・・あぁ。あの事・・・。」

「ぉ、ぉぅ。モヤシ、ホンマは頭エエのに、ウチが誘ったばっかりに、大分低いレベルの高校に来たやろ?

鎌司にそれ言われて、あぁ、ウチはモヤシの自由をかなり奪ってしもうてんなぁって思ってな。

ほんまに気の利くやつやから惜しいんやけど、アイツにはせめて良い大学に行ってもらおうと思ってな・・・。」

「・・・姉ちゃん・・・。」

鎌司は、姉の少し悲しそうな目を見て、かける言葉がすぐには思いつかなかった。

やっぱり姉は姉なりに、色々と考えていたんだ。

そう思った。

「・・・でも姉ちゃん・・・。 モヤシ君、またいじめられたりしないかな?姉ちゃんと距離が出来たら・・・。」

「ん?あぁ。それは大丈夫ちゃうかな。 中学の頃アイツをいじめてたやつは今の高校にはおらんし、

アイツもウチと行動を共にして、多少は鍛えられたはずやしな。」

「・・・鍛えられた・・・?」

 モヤシは大きな箱を抱え、家に帰りついた。

「ただいま。」

「あら、おかえりなさい。」

お母さんが玄関まで出迎えに来た。

「ご飯できてるけど・・先に食べる?」

「・・・いや、さきにお風呂に入るよ。」

「そ、そう。じゃあ、30分くらいしたら用意しとくね。」

 鍋衣のパシリになりしばらくたった頃、

モヤシは事細かくいつも愚痴を言う母に反抗した。

鍋衣の影響だろう。

モヤシの母はそれ以来、あまりモヤシにきつく言って来なくなった。

低レベルの高校を受けると言った時も、反対はしたがモヤシは自分の意見を押し通す事が出来た。

『やり返さな、いつまでもイジめられるぞ?』

あの日、鍋衣と出会った日に言われた言葉。

自分でも気付いていないが、今のモヤシは多少なソレを実践できるようになっていた。

モヤシは風呂に入り、母と一緒に食事を摂る。

あまり会話は無い。

母さんは、あの日モヤシが反抗してからは無駄に話しかけてこなくなったからだ。

「ねえ、母さん。」

モヤシは口を開いた。

「何?保。」

箸を止め、母さんもモヤシの顔を見る。

「・・・大学受験。頑張るから・・・。 必ず医大、受かってみせるからね。」

母は昔のように多くは語らず、一言「頑張って。」とだけ言ってくれた。

おつかれさまでした。

今回は創作の為、モヤシ君は助かりましたが、

現実ではこのように【助かる】人はほとんどいません。

そのほとんどが、【耐える】か【逃げる】のどちらかを選択しているのです。

どちらも辛い道です。

僕は言いたい。

どちらに原因を求めるかと言われたら、【いじめるほう】に求めるべきだと。

この話を読んで、いじめられた側の気持を少しでも理解してくれて、

いじめられたら辛いんだなと思い、

今までしていたいじめを少しずつでも辞めてくれる人がいたら、

幸せに思います。

何事も1度に全部は無理です。

まずは少しずつ改善していきましょう。