私の昔の彼氏、隆(仮名)は、元彼女の話をなかなかしてくれなかった。
私は興味深々だったのだが、いつも口を濁してばかりではっきりした話は聞けずじまいだった。
まあ私達は仲良しだったので、別にどうでも良かったのだが。
ある日二人でコンビニに行った。
私がクリーム入りのプリンを手にした時。
隆「あっ、。」
隆は小さく声をあげた。
見ると、怯えたような顔をしている。
私「どうしたの?」
隆「いや、、、。いいよ。」
私「はっきり言ってよ。」
隆「うん、、、、、。」
途端に無言になった隆。二人で隆のアパートまでの帰り道。私の手をしっかり握っていた。
確実に何かを怖がっているようだった。
アパートに着いて荷物を広げていると。
隆がポツポツと話し始めた。
以下、隆口調で。
俺の前の彼女なんだけど、、、。
そのクリーム入りのプリンが大好きでさ。
いつも買ってたんだよ。
その彼女さあ、普段はすごい優しいんだよ。
もう、馬鹿がつくくらい。
いつも俺の後ばっかりついて歩いてさ。
あ、ごめんな。
でもさ、、、、、スイッチが入るんだよ。
そのスイッチが入ると、もうとんでもなく怖いんだよ。
例えば、きっかけはどんな事でもいいんだ。
俺がテレビの芸能人見て、この子可愛いよね。とか。そんな小さい事なんだ。
そしたら、スイッチが入る訳。
突然、わめき散らすんだ。文句とかのレベルじゃないよ。
奇声。ギーギーって。ほんとにギーギーって言うんだ。
目付きも変わる。まるで別人だった。口からヨダレたらしてさ、その、、、、、今お前が持ってるプリンな。
それ、顔に塗りつけるんだ。
もうそうなったら、いくら俺が謝ろうが、叩こうが、一切何も通じない。
ただギーギーギーギー言って、プリンを顔に塗りまくるんだよ。
俺はいつでも別れようとした。
でも怖かった。
普段はほんとににこにこしてて、可愛くて、誰が見ても普通なんだ。
ただ、スイッチ。
スイッチが入ると駄目なんだ。
ついにある日、ギーギー言いながら、包丁を持ち出した。
力はそりゃ俺の方が強いよ。
でもよ、白目みたいな目でヨダレ垂らして包丁持ってるんだぜ。
俺は逃げた。
友達の家に泊めて貰った。
2日たって、アパートに戻った。
カピカピになった飯の前に座ってた。
「おかえり。」にこにこ笑ってそう言った。
でも、手にはプリンが握られてた。
今からスイッチが入るんだ!!
俺は女を抱え上げた。騒ぐ女を抑えつけながら、アパートの玄関から放り出した。
バンバンバンバンドアを叩いてギーギーギーギー喚くのをやめなかった。
俺は汗びっしょりになって部屋の中で震えてた。
警察が来たんだ。
訳の分からない奇声と共に女は連れていかれた。
俺は引っ越した。
そのプリンを見ると、あの女が目の前に居るみたいだ。怖いよ、、、、、。
私はプリンを窓から放り投げた。
スイッチ。
私にもあるだろうか。
いつか。いつか。
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