僕は、将棋を趣味でやっていましてね。

たまに、会社の将棋部の方に、帰りに居酒屋につれていってもらうんです。

その日は二件目に突入し、連れて来てくれた先輩(定年前)はもうベロベロでした。

席は、ママさんが動かなくていいように、いつものようにカウンターに座り、

ロレツが微妙な状態で、つれて来てくれた先輩はしゃべっています。

五割ほど内容は理解できるので、四捨五入して会話は成立とばかりに相槌をうつ僕。

そんなヤリトリが続き、九時を回った頃でしょうか。

ガラガラガラ

店の玄関が開きました。

見るとこの店でちょくちょく見かける、

常連風のおばちゃんが入ってきて、入り口近くのカウンターに座りました。

「こんばんは。ちょくちょく、見かけますよね。 よく来てはるんですか??」

席が近くだったので、とりあえず挨拶をした。

「あぁ、何度かにいちゃん見かけたことあるねぇ。こんばんはぁ。」

おばちゃんも、コテコテに挨拶をしてくれた。

それをみていた先輩は、

「おお~~〇〇ちゃん(おばちゃんの名前)。 まー1杯飲みや~~。」

といって、チューハイをそのおばちゃんに頼んであげていた。

しばらくして、先輩が店のママさんとなにやら人間関係の話をしだしたので、

僕はおばちゃんとあたりさわりのない話をした。

映画の話から入ったが、世代が違うからぜんぜんかみ合わなかった。

そこから俳優の話になったが、

これも世代の違いでまったく噛みあわない。

そんな会話が続く中、おばちゃんは、

「怖い映画とか、見るの?」と聞いてきたから、

「まー見ますけど、あんまり怖いと思わないですねぇ。映像は・・・。」と返す。

おばちゃんは、

「ほんまかいなぁ。実はおばちゃんもやねん。 なんや、あの、呪怨って、 あんなもんおるかいな!」

ん。

ここで、僕のアンテナはすこしピンと来た。

「もしかして、なんか、そういう霊的な経験した事とかあるんですか?」

ひょっとしたらと思い聞いてみた。

「あるある~。 何回もあるわ。」

今から、簡単にまとめて書く三つのお話は、おばちゃんが昔体験したお話です。

ひとつ目は、おばちゃんの職場の話。

おばちゃんはビルの11階で受付の仕事をしているらしい。

場所はエレベーターのまん前で、エレベーターから出て左に行くと、各部屋があり、

右に行くと、非常階段の入り口の扉があるだけで行き止まり。

ほとんどの人は、エレベーターから出て左に行く。

右の行き止まりの方に行くのは掃除のおばちゃんか、緊急で階段を使う人がたまにいるくらい。

その非常階段の扉というのも、開けたら絶対に

ガチャッ

と、音がするらしい。

でもずっとその場所で仕事をしていると、あるおかしな事に気がついた。

エレベータから出て、早足にススっと、

非常階段の扉のあるほうに歩いていく茶色いスーツのズボンの人がいるという。

スーツのズボンというのも、足しか見たことがないらしい。

決まって、何か書き物をしてたり、用事をしてるときにその人はエレベーターから出てくるのだ。

足だけが視界に入り、ふと顔をあげても、もう見えないところまで進んでいってしまっている。

何度かその【足】を見ていると、もうひとつの疑問が浮かんできた。

非常階段の扉は、絶対に開けたら

ガチャッ

と、音がする。

どんなにそっとしめても、あけても、

その音はするのだ。

でもその【足】の人が非常階段の扉の方に行ったときは、そのガチャッという音が聞こえてこないのだ。

おばちゃんは、気になって、ある日【足】が行った後、すぐに追いかけたらしい。

そして、非常階段の扉をガチャッと開けて、確認した。

でも誰もいない。

その話を、他の受付の人に話してみた。

「え?〇〇さんも、それ見たことあるんや・・・。」

受付の女の人は、全員、その足を知っていたそうです。

二つ目は、病院のエレベーターの話。

エレベーターに乗ると、なんだか一人なのに視線を感じる。

後ろをチラ見したら、おじいさんが立っていたらしい。

気付かないフリをして、すぐに降りたそうです。

三つ目も病院の話で、

その病院はもう、入る時からなんだか嫌な感じがしたそうです。

古い病院からかな、と思い中に入ると、やっぱり嫌な感じがますます強くなる。

待ち時間に、地下の売店に行ったときに、その理由がわかったらしい。

その病院、

分娩室と、

霊安室が、

向かい合わせだったんだって。

後から知ったらしいけど、

亡くなる方も多い病院だったらしいです・・・。

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「・・・まあ、つまり、霊とかいうて、皆怖がってるけど、 心は我々とおんなじや。

何も怖いことあれへん。 

その茶色いズボンの【足】の人も、 エレベーターのおじいさんも、

たまたまそこが通り道なだけで、 別に本人は何も悪い事はしてへん。

死んだ事すら気付いてへんかもしれへん。」

そう言って、おばちゃんは自分の右足のズボンの裾を、膝くらいまで捲り上げた。

背筋がゾクっとした。

おばちゃんの膝には、昔負ったであろう酷い火傷の後があった。

「・・こ、これ・・どないしたんですか・・・?」

「これな。 別れた前の旦那にやられたんやわ。今で言う、DVっていうやつかな。

人間も霊も、悪い者は悪い事するし、良い者は何もせえへんっちゅーことや。」

そう言って、おばちゃんはトイレに行った。

グラスが空いていたので、何か頼もうとふとカウンターの方を見ると、

「‥ちょっと」

カウンターのママが、呼んでいる。

「は、はい。」

ママの方を向くと、ママが小声で、

「・・アノ人の元旦那さんの事、あんまり触れんほうがいいで。 

別れて一年くらいしてからかな。 自殺しはったんやわ・・・。」

ソレを聞いて、またまた背筋がゾクっとした。

だって、あのおばちゃんの膝の火傷がさ、

男の人の顔みたいに見えたのが、気のせいじゃないんだなと思ったから。