私の通っている介護専門学校のクラスメイトは、下が21から上は57までと年齢層が豊富だ。
その中で、仲良くなった57の佐倉さん(仮)の話だ。

佐倉さんは一年前、同居だった母親を看取った。
その母親が亡くなった晩の出来事である。

訃報を聞いて駆けつけた近所の人の接客や精神的な疲れもあり、

佐倉さんは母親の遺体の隣の部屋に布団を敷き、そうそうに横になったという。

夜中、佐倉さんは声で目を覚ました。

「よーい・・・よーい・・・」

その独特の声は、寝たきりだった佐倉さんの母が、夜に何かあった時に佐倉さんを呼ぶ声だった。
目を開けると声は止んだ。
母は確かに、家に来た医者に臨終を告げられているのだ。
きっと今までの母の声が頭から離れずに、夢を見たのだろうと思い、佐倉さんは再び目を閉じた。

「よーい・・・よーい・・・」

声は目を閉じた直後にまた聞こえた。
すぐに目を開いた佐倉さんだったが、声は止まない。
まさかと思い布団から這い出ると、襖一つ挟んだ隣の部屋を覗いてみた。

葬儀屋の用意した綺麗な布団に寝かされた母親の遺体に変わった様子はない。
顔にも綺麗に白い布がかけられたままだった。
声は聞こえなくなっていた。
その日、それ以上声が聞こえる事はなかったという。

翌日。
兄弟縁者の見守る中、湯灌が行われ、母親の遺体は棺に納められ、祭壇が作られた。
神道の葬式に通夜はなく、その後、親類一同で遺体と同じ部屋で酒盛りが行われ、
佐倉さんの妹と息子さんが寝ずの番を買って出た。

佐倉さんが床についていると、深夜に妹さんに揺り起こされた。
「お棺からおかあさんの声がする」
話しを聞くと、祭壇の前で蝋燭の様子を見ながら妹さんは本を読んでいた。
すると、お棺から「よーい」と母親の声がしたというのだ。
それで驚いて佐倉さんを起こしたそうだ。

昨日の事を思い出した佐倉さんは、確認の為、祭壇まで行きお棺の窓を覗き込んでみた。
母親は安らかな顔のままで、別段、声をあげる様子もない。
きっと気のせいだと棺から二人で離れた直後、お棺から

「よーい」

と声があがった。
さすがに度肝を抜かれた妹さんはパニックで泣き出してしまったそうだ。
佐倉さんはお棺に戻ると窓を叩いて呼びかけてみた。
馬鹿げていると思いながらも、もしかしたら、という気持ちもあった。
母親は目を開ける事も口を開く事もなかった。

その晩、息子さんの番でも一度「よーい」と声が上がったらしい。

翌日、予定通り葬式が執り行われ、母親は荼毘にふされたそうだ。

その後、佐倉さんは寝ていると夜中に「よーい」という母親の声でたびたび起こされたという。

それから一週間程が経ったくらいで、声は聞こえなくなったのだそうだ。

聞こえなくなるとそれはそれで寂しいと佐倉さんは言っていた。