子供の頃

いつもきまって見る

幽霊がいた

正確には

気配を感じていた

と言ったほうがよいのかもしれない

その頃住んでいた家の斜め前に道路をはさんで一本の木が立っていた

まだ小学校にあがる前

そこに男が現われるようになった

顔も年令もよくわからない

ただはっきりしていたのは真っ白なランニングシャツを着ていることだ

夕暮れ

あたりが暗くなる頃に

彼はきまって現われた


隣の家に回覧板を届けるときも

近くの雑貨屋におつかいに行くときも

彼は必ずそこにいた

いつの頃からか僕は彼を

『ランニング幽霊』

と名付けていた

ランニング幽霊はただ木の下にいるだけで何をするわけでもなかった

でも日によって

彼の様子は変化した

ほとんどはただそこにいるだけだったが

時には物凄い恐怖を感じさせる日もあった

そんな日は彼のほうを見ないで走って家に帰った

でも僕は恐いながらも

彼に不思議な親しみを感じていたように思う

小学校五年あがる頃

今住んでいる家に引っ越した

それ以来

ランニング幽霊を見ることはなくなった

かつて知人にこの話をしたら

「すみません、笑ってもいいですか?」

と言われました

彼は『ランニング幽霊』という名前がおかしかったそうです

納得です

大概の人はランニング幽霊と聞いて走る幽霊を想像して

まさかランニングシャツを着た幽霊だとは思わないようです

以来そのネーミングセンスでこの話は笑える怪談になりました

ランニング幽霊が立っていたいた木はまだ残っていて

今でもよくそこを通りますがもう彼はそこにはいません

ランニング幽霊は

子供ならではの幻想だったのかもしれませんね