その家は私が生まれ育った田舎にあります。

三重県の名張市というところです。

瓦屋根の昭和風な家が立ち並ぶ中、

その家は比較的現代風の建築で、

手入れさえしていればとても綺麗な家なのですが、

もうずっと人が住んでいないため、今は荒れ放題に荒れています。

家の前に通っている道を200mも歩けば駅もあるし、

そんなに問題のある家には見えないのですが、

住む人はみんな、3カ月程しかもたずに、みんな引っ越していったそうです。

その理由には、私の地元特有のある習慣がかかわっています。

私が住んでいた地域はいわゆる「地元の人間」が多く住んでいるところで、

外から引っ越してきた私たちのような人間には理解できない田舎の風習のようなものも、

たくさん残っているところでした。

その一つが、土葬の習慣です。

今でこそ、外の人間が増え、葬儀場も増えてきましたが、

昔は葬儀場一つ作るのにも、土葬を信仰する地元の人間たちの反対が強く、

断念せざるをえなかったということも多々あったそうです。

今は葬儀屋に頼んで、遺体は火葬してもらうのが一般的になってきました。

しかし、今でも土葬を行っている地域があって、

その地域の人間は今でも、死体を埋める山を地域で共有しています。

死体を埋める場所は、個々に別々の穴ではなく、

前に死んだ人間を埋めた場所をもう一度掘り起こして、その上に死体を重ねて行くそうです。

なので、不幸が重なれば、穴の中の死体はまだ腐敗が進んでいないので、

掘り起こす際にスコップで頭や肉をえぐってしまうこともよくあるそうで、

そんなものを見た日には、鳥の刺身は食べれないそうです(食事中の人スミマセン)

話が少々ズレてしまいましたが、

その死体を埋葬する山が、例の家の裏手に広がる山なのです。

そんな事情を知ったのはつい最近の事なので、

なにも知らなかった小学生の頃の私は、友達と一緒に自転車でその辺をよく探検して遊んでいました。

今思えば確かに、あの山は昼間でもどんよりと暗く、あまり良いイメージではありませんでした。

ただ、近くの湖でブラックバスがよく釣れたので、友達とよく遊びに行っていたのです。

うろ覚えですが、たぶん夏だったと思います。

その日も一緒にバス釣りに来ていた私と友達は、

いつもバス釣りをしている、道路に面した湖側からではなく、

向こう岸の、森に面した湖側から釣りをしようと話していました。

しかし、湖のすぐ隣には釣り道具やボートを売っている店が隣接しているだけで、

向こう岸に行く道はありませんでした。

ただ、木と雑草が覆い茂っているだけです。

私たちは隣接する釣り店を通り越して、どこかに山へ入っていく道がないか探していました。

すると、釣り店とその隣の家の間に、山の中へ続く細い道がありました。

私たちは何も考えずに、釣り道具だけ持ってその道に入って行きました。

右には釣り店、左には荒れ放題だけど、よく見たら綺麗な作りをした家がありました。

少し歩くと、家の裏手に墓場があるのが目に入りました。

この時初めて、ここは不気味なところだなーと感じました。

「なんか怖いなぁ」と友達と話しながら家を通り過ぎた時、

何も考えずになんとなく振り返ると、

墓場に面した家の壁が目に入りました。

その壁は、

少し煤けて灰色になった白い家の表面も、

窓に引かれた古い雨戸も、

一階部分の、人の手が届く範囲はすべて、

茶色い土色をした手形がびっしりとついていました。

この時は、「うわー誰がいたずらしたんやろ。かわいそーに」

くらいにしか思いませんでしたが、

大人になり、地元の事情を理解できるようになった今考えれば、

きっとあの手形が、あの家を誰も住めない家にしてしまった元凶ではないかと思います。

その家は今も、

そこに建っています。

もちろん、住んでいる人は誰もいません。