しかし何かがおかしい。

頭部が長髪の女の顔なのだ。

いや正確に言うと、頭部が女なのではなく、首が切り落とされた男の体の上に女の生首が乗っているようなのだ。

そいつの首の付け根からは、絶えず血が溢れてだしていた。

手には何かを持っているようで、生首女の目は恨めしそうにずっとこちらを虚ろに見ていた。

そいつは有無も言わさず、荷物を整理する為に部屋の中心にいたもう一人の友人の首も切り落とした。

と同時に、窓際に座っていた男は、無我夢中で窓から飛び降りた。

そして命からがら逃げ出して、登山道を偶然通りかかった登山者に助けを求めたそうだ。

「な…仲間が何者かに首を切り落とされて殺された!」

この信じ難い話に半信半疑だった登山者だったが、

急いでロッジに到着してみると、凄まじい光景に腰を抜かしてしまった。

入口を開けて一階に入ってみると、女が二人とも首を切り落とされて死んでいた。

「これは大変だ…!」

その後すぐに警察が出動した。

生き延びた男は窓から飛び降りた時に足を骨折していたらしく(よく動けたものだ…)、病院へ搬送された。

警察が現場検証をしたところによると、

四人の遺体の切断された切り口があまりにも鋭く斬られていたのか、出血もほとんどなかったそうだ。

警察はどんな凶器を使用したのか、まったくわからないと首をひねるばかりだった。

そして不思議な事に、犠牲者達の首は一つも見つからなかったそうだ。

結局事件は迷宮入りしてしまった。

病院では、ベッドに横たわる怯えた姿の逃げ延びた男がいた。

そしてその部屋では看護師が男の点滴を替えている時だった。

コンコン…。

「あれ?誰だろう?はーい、どうぞ。」

しかしドアは開かなかった。

その替わりに声が聞こえた。

「この部屋に入院している者の母でございます。」

「実は荷物を持っていまして…すいません、開けて頂けませんか?」

男の母親の声だった。

が、母親は単身赴任の父を訪ねて東京にいるはずだった。

ここは旭川だ…こんなに早く母が到着できるのだろうか?

そもそも誰が連絡したのだろうか?

男はひとりその不自然さに気づいた。

看護士が答える。

「はーい、今開けますね。」

『駄目だ!開けては駄目だ!』

そう男が声をあげようとした瞬間、

ゴトッ…!

男が気づいた事とは、どうやらそいつは自分では決してドアを開けない、と言う事。

そいつは、どんな人の声も真似できるらしいと言う事。

そいつはあらゆる口実でドアを開けさせようとする事。

そして最後に…そいつは自分の存在を知った人間を、殺すまで追い続けると言う事。

男は、その時はぴったりと「閉じた」ベッドを仕切るカーテンの中で気絶してしまったので、助かったようだった。

しかしそれ以来、男はドアのある場所へは近づく事すら出来なくなってしまったとのこと。

現在もその男は精神病院の鉄格子の中で、大学ノートにこう書き続けているそうだ。

あの古本屋で見つけた、ノートの持ち主と同じように…。

奴が来る奴が来る奴が来る奴が来る奴が来る奴が来る奴が来る奴が来る奴が来る奴が来る奴が来る奴が来る

以上が私が聞いた話。

この話を聞いてしまった時、私の所にもそいつが来るのではないかと心配になりました。

しかしいくらなんでも、それはないと思っていました。

しかしこの話を友人二人にしていた時、話が終わった午前五時頃、いきなり家のチャイムが鳴って驚きました。

恐る恐る玄関に行くと

「おい、俺だよ俺、祐司だよ!

開けてくれよ!」

と、東京に就職した友人の声がしました。

さすがに皆焦って、そっと鍵を開けて

「鍵開いてるよ!」

って言ったんです。

そしたら、

「お土産沢山抱えてて…開けてくれよ!なあ!開けてくれよ!」

それを聞いて全員怯えてしまったんですど、友人の一人が機転を利かせて、裏口を開けたんです。

そして、

「祐司、なんかドア壊れたみたい。

裏口開いてるから入っておいで。」

って言いました。

今考えると入ってきたらどうするんだ!って話なんですけど、その時は無我夢中で。

それから朝まで、友人皆と布団被って震えてました。

朝十時頃、祐司に電話してみると

「え、今?東京にいるけど、なんで?」

それを聞いて、私達はゾッとしてしまいました。

今でも半信半疑ですが、もう誰かの為にドアを開ける事は絶対にしないようにしています。