AB父はひざから崩れ落ち、小声で「何てことを…」と呟いた。

その時、□□(別地域)集落にある神社の神主がカブに乗って現れた。

神主は事情を聞いていたわけではなかったようだが、

俺とCを見て厳しい顔で言った。

神主「嫌なモノを感じて来てみたが…お前さんたち、何をした?」

激しく責められ咎められているような厳しい視線に突き刺されるような痛さを感じたが、

同時に何か「助かった」というような安堵感もあった。

それでもまだ、頭の中がモヤモヤしていて、どこか現実感が無かった。

もうまともに喋れなかった俺たちに代わり、大人たちが神主に説明すると、

神主はすぐに大人に何かを指示し、俺とCを連れて裏山のお稲荷さんまで走った。

俺とCは背中に指で「ハッ!ハッ!」と文字を書かれ、頭から塩と酒、そして酢を掛けられた。

神主「飲め!」

と言われ、まず酒を、そして酢を飲まされた。

そして神主が「ぬおおお!」と叫びながら俺とCの背中を力いっぱい叩くと、俺もCも嘔吐した。

嘔吐しながら神主が持っている蝋燭を見ると、蝋燭の火が渦を巻いていた。

胃の中身が何も無くなるぐらい、延々と吐き続け、服も吐瀉物にまみれた。

もう吐くものがなくなると、頭の中のモヤモヤも晴れた。

集落に戻り水銀灯の光を浴びると、俺とCの服についた吐瀉物の異様さに気が付いた。

黒かった。真っ黒ではなかったが、ねずみ色掛かった黒だった。

それを見てまたえずいたが、もう胃の中に吐くものが残っていないようで、

ゲーゲー言うだけで何も出てこなかった。

その足で、□□集落の神社へ、俺とCは連れて行かれた。

服も下着も剥ぎ取られ、境内の井戸の水を頭から掛けられ、着物を着させられた。

そして着物の上からまた塩と酒、酢をまぶされてから本殿に通された。

神主「今お前らのとこと□□集落の青年団がAとBを探しに行っている。」

神主「AとBのことは…忘れるんだ。」

神主「知らなかった事とは言え、お前たちは大変なことをしてしまった。」

神主「あそこで何を見た?」

神主「封印してあったものは、見てしまったか?」

神主「俺も実際には見ていない。先代の頃の災いだ。

だが何があるかは知っている。何が起こったのかも知っている。」

神主「大きな葛篭があったろう。あれは禍々しいものだ。」

神主「鏡が3枚あったろう。それは全て、隣家の反対を向いていたはずだ。」

神主「札が貼ってあったあれな、強すぎて祓えないんだ。」

神主「だからな、札で押さえ込んで、鏡で力を反射させて、効力が弱まるまでああしていたんだ。」

神主「あの鏡の先にはな、井戸があってな。そこで溢れ出た禍々しい力を浄化していたんだ。」

神主「うちの神社が代々面倒見るってことで、年に一度は様子を見に行ってたんだがな。」

神主「前回行ったのは春先だったが、まだ強すぎて、運び出すことも出来ない状態だ。」

神主「俺は明日、あの家自体を封印してくる。」

神主「だが完全に封印は出来ないだろう」

神主「あれはな、平たく言うと呪術のようなもんだ。」

神主「人を呪い殺す為のものだ。それが災いをもたらした。」

神主「誰に教わったのだか定かではないが、恐ろしいほどに強い呪術でな。」

神主「お前らが忍び込んだ向かいの家はな、○○と言うんだが、家族が相次いで怪死して全滅した。」

神主「他にも数軒家があったが、死人こそ出てないが事故に遭うものや体調を崩す者が多くなってな。」

神主「お前らが忍び込んだ家には昔△△という人間が住んで居た。」

神主「△△は若い頃は快活で人の良い青年だったようだが、

ある時向いに住む○○と諍いを起こしてな。それからおかしくなっちまったんだ。」

神主「他の家とも度々トラブルを起こしていたんだが、特に○○家を心底憎んでたようだ。」

神主「周囲の家は、ポツリポツリと引っ越していった。」

神主「原因不明の事故や病人がドンドン出て、それが△△のせいじゃないかと噂がたってな。」

神主「結局、○○と△△の家だけが残った。昭和47年の話だ。」

神主「その頃から○○家の者は毎月のように厄災に見舞われ、一年後には5人家族全員が亡くなった。」

神主「△△が呪い殺したんだと近所では噂した。ますます△△に関わる者はいなくなった。」

神主「そして翌年、今度は△△の家族が一晩で全滅した。」

神主「あの家は△△と奥さんの二人暮しだった。」

神主「△△は家で首を括り、奥さんは理由はわからんが風呂釜を炊き続けて、熱湯でな…。」

神主「それだけじゃない。」

神主「東京に働きに出ていた息子と娘も、同じ日に事故と自殺で亡くなってる。」

神主「△△家族が死んで、捜査に来た警察関係者の中にも、自殺や事故で命を落としたり、

病に倒れた人間が居るらしいが、このあたりはどこまで本当かわからんがな。」

神主「△△が使った呪術は、使った人間の手に負えるものじゃないんだよ。」

神主「当時先代の神主、俺の父親だが、とても祓うことは出来ないと嘆いてた。」

神主「△△一家が全滅して、あの集落は無人になった。」

神主「あの二軒はな、禍々しい気が強すぎて、取り壊しもできない程だった。」

神主「そして先代の神主は、まず災いの元になったものを封印し霊力を弱め、

十分弱めることができてから祓うことにした。」

神主「祓えるのはまだまだ何十年も先だろう」

神主「そして、溢れ出た呪術の力は、お前たちに災いをもたらすだろう。」

神主「おおかたさっき吐き出させたが、これでは済まん。」

神主「あの家の呪術の力と、Bのこともあるからな。」

神主「呪術の強さはともかく、お前たちを見逃しはせんだろうな、Bのこともあるから…。」

神主「塩と酒と酢、これは如何なるときも肌身離さず持っていろ。」

神主「それとこれだ。」

神主「この瓶の水が煮えるように熱くなったら、お前の周りに災いが降りかかる時だ。」

神主「その時は塩を体にふりかけ、酒を少し飲み、酢で口をゆすげ。」

神主「向こう20年、いや30年か。それぐらいは続くと思っていい。」

神主「今夜はゆっくり休め。」

神主「C、もう近寄る気はないだろうが、あそこには二度と行くな。」

神主「あとでお前の両親にも言って聞かせる。出来ることなら引っ越せとな。」

神主「AとBの名も口にするな。声に出すな。」

神主「お前は東京モンだ、もうこの集落には来るな。」