ちょっと仕事帰りに、一杯引っ掛けて帰った。

その日は、妻はパートに出ていて、夜10時位までは帰ってこない。

早めに仕事も片付き、帰途に就いたが、

家で独りで帰りを待っているのもつまらないと、会社の近くの呑み屋に寄ったのだ。

家に着いたのはだいたい夜9時半頃だった。

玄関の鍵を開ける。

自宅の玄関のドアは二重ロックで、

普通の鍵の上に、ピッキングでは開錠不能の外国製の鍵がついている。

因みに、国内では、合い鍵の製造も不可能だ。

二つの鍵を開け、ドアを引く。

程なく、ガツンと手応を感じた。

ドアが開かない。

よく見るとドアチェーンがかかっている。

おかしいな

嫁さん、先に帰ってるのかな?

インターホンを鳴らす。

ぴーんぽ~ん…ぴんぽ~ん…。

返事はない。

もう一度。

ぴーんぽ~ん…ぴんぽ~ん…。

やっぱり返事はない。

部屋も暗いままだった。

じゃあもう電話だい!と、携帯を取りだそうとスラックスのポケットをまさぐった時、

「何か」が玄関のドアと壁の隙間からこちらを見ていることに気づいた。

床に頬を擦り付けるように、白っぽい子供が、こちらを見上げていた。

一瞬、部屋を間違えたかと思ったが、それなら鍵が開くはずもない。

その子に何か尋ねようと口を開きかけた瞬間、ドアや壁の端に手をかけるように、たくさんの手が、

ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたっ

と、現れた。

その手は一様に白かったが、老若男女、混じっていたように思う。

僕が一歩後ずさると、その子は真っ赤な口でけたたましく笑い、すぐにドアが

ガンッ!

と凄まじい勢いで閉じられ、二つの鍵がガチンガチンッと音を立てて閉まった。

…。なんだこれ。。

質の悪い冗談なら、小一時間説教してやるんだが、相手はこの世のモノではなさそうだ。

大人しく妻と自宅近くのバーで待ち合わせ、少し呑み、再度帰宅した。

酔ったふりをして、妻にドアを開けてもらったが、すんなり開いた。

室内もいたって普通。

手狭な、都会のマンションの一室だ。

挙動不審な僕を見て、妻がニヤリとしたように思えた。

まるで、自分が仕掛けた悪戯に、まんまと嵌った人間を見るように。

それ以降こんな出来事はないが、何となく気にかかる。

僕の妻は霊感が半端じゃないほど強い(らしい)。

僕に内緒で何か人外の者でも飼い慣らしてなければいいのだが。