警察署では、オレと友人は誰かに追いかけられて逃げ込んだと言い訳した。

あんな話など誰が信じてくれる?

だが、警察は思わぬ事を言った。

あれから、あの辺りを調べると橋の近くで2人分の”遺体の一部”が発見された・・。

又、一人が近くの草むらで心神喪失状態で発見された・・・と。

警察では、さすがにオレ達を犯人とは思っていないようだが、犯人の手がかりが欲しいと言うことだ。

夢だったというオレの望みはこの時絶たれた。

あの襤褸切れがやったんだ。

幽霊なんて信じないオレでも、あの橋の近くには二度と近づくべきではないと言うのが理解できる。

本当にそんな奴が居るのかどうかなんて、もう一度試す気なんてなかった。

一気に2人が死亡した事で、この橋には誰も近づかなくなった。

肝試しをするには余りにもその記憶が新しすぎるのだろう。

オレはその後、この町を引っ越したが、今でも偶に友人と連絡を取ることがある。

あれから2年が経ち、あの辺りではあれ以降、行方不明者は出ていないと言う事だ。

結局、見間違いだったと言う事なんだろうか?

少なくとも、オレと友人の間では其れで決着していた。

深夜と言う事もあり、

仕事帰りの車を運転しながら荒川を渡っている時、オレはそんな昔の記憶を思い出していた。

すいた橋を走行中、対向車線からやって来る車の屋根に何気なく視線が行く。

目が奪われ、思わずハンドル操作を誤りそうになった。

一瞬、目が合った

目玉のない、黒い眼窩と。

思いっきりクラクションを鳴らしながら擦れ違う。

次の瞬間、橋の下のほうから水音が聞こえる。

オレは急ブレーキをかけて停車したが、車の外には出る事ができなかった。

あの車はオレが煽ったとでも思ったのか、うるさくクラクションを鳴らしながら走り去っていく。

ガタガタと寒気が襲って来るのを感じていた。

あの目、あの目玉のない真っ黒い穴のような眼窩。

オレ達が見たのは正にあれだった。

鮮明に記憶が蘇ってくる。

同時に聞こえるはずの無い、カサカサと言うような音を”感じた”気がした。

オレは無我夢中でアクセルを踏み込むと、車を発進させる。

一刻も早くこの場を離れたかった。

直線である事と、深夜であると言う条件が無ければ、オレはきっと事故っていただろう。

ネズミ捕りの警察が、目の前に現れるまでオレはずっと闇の世界で追いかけられている気がしていた。

赤色灯を見て不覚にも涙が出る。

警官にはかなり怒られたが、それでも良かった。

その後、オレはあの橋には行っていない。

深夜に橋を通る気はしないし、友人にもあの橋を通るなと言っておいた。

勿論、深夜に橋に近づくなとも・・。

あの奇妙な襤褸切れは、今もあの橋の下に巣食っているのだろうか。

それとも、誰かの車の上に載って移動してしまったのだろうか?

オレはもう二度と、夜の川沿いの散歩は出来そうもなかった。