故郷を遠く離れて大学生活を謳歌していた弟から久しぶりに電話があった。

「あ、姉さん。ぼくだよ。それよりキティは元気かい?」

家に残してきた愛猫の様子が知りたかったらしい。

「あ、あんたの猫ね。こないだ死んじゃったわ。近所の酔っ払いの車に轢かれてね」

受話器の向こうで弟は絶句し、やがて「思いやりがない」と非難した。

「そういう時は…姉さんだってぼくがキティを可愛がっていたの、知ってたんだから…嘘でもいいからこう言うんだよ。

『キティは昨日、木に登ったのよ』って」

「なによそれ。人の話、聞いてる?。あんたの猫は酔っ払いの…」

「黙っててよ。そしたらぼくが、『え、それでどうしたの』とたずねるだろ。そしたら

『みんなで助けようとしたけど、自分でどんどん上の方に登ったのよ』って言うんだよ」

「…」

「そう聞いたら僕にだって心の準備ができるだろ。で『それからどうなったの』と聞かれたら

『かわいそうだったけど、木から落ちてしまったんだよ』

って言うんだ。そしたら僕だってひどいショックを受けなくて済むじゃないか」

「…わかったわよ。これからは気をつけるわよ…」

「…いいよ、もう。…それより、母さんは元気?」

「母さん? ああ、母さんは昨日、木に登ったのよ」