俺が子供の時、ひいばあちゃんが言った。

大正五年生まれのウメばあちゃんだ。

ウメばあちゃんは、生まれてすぐにお父さん(源次郎さんという名前だ)が失踪して、

苦労したらしい。

ウメばあちゃんのお母さん、つまり俺から見たらひいひいばあちゃんにあたるヤスばあちゃんは、

気が強くて、世間からつまはじきにされていたらしい。

「あたしたちはほんといろいろ嫌がらせされたねえ。ずいぶんひどいことも言われたし」

「どんなこと?」

「おっかさんが嘘つきだとか、自分の亭主を殺したんだろうとか。

もちろん、あたしゃそんなこと信じてないよ。おっかさんはやさしい人だったよ」

「ふうん、ずいぶんひどいことを言われたんだねえ」

「そうさ、あいつら何にも知らないくせにおっかさんのことを人殺しだなんて。

どれ、おまえに見せてやろう。あたしのおとっさんはね、大陸に行ってたのさ」

そう言って、古い便箋を取り出してきた。そこにはこう書いてあった。

『ヤス、ウメ。

突然いなくなってしまって済まない。実は今、大陸にいる。詳しくは言えないが、お国の仕事だ。

今、おまえたちも知っているとおり、第一次世界大戦の真っ最中だ。

私は国の仕事で大陸の情勢を調べなければならない。危険な任務だ。

もしかしたら生きては帰れないかもしれない。

もし私が帰れなくても、おまえたちは強く、しっかり生きていきなさい。

ヤス、ウメのことを頼む。

大正七年一月』

「あたしも大人になった頃だね、どうかしてたんだろうね、

おっかさんに本当はおっかさんがおとっさんを殺したのかって聞いたんだ。

そうしたら、おっかさんがこの便箋を見せてくれてね。

お国の仕事だから今までおまえには言えなかったけど、

おとっさんは死んだとしても国のために死んだんだよ、って言って」

でも俺は気づいてしまった。

そのことは、ひいばあちゃんには言えなかった。