「お姉ちゃん、お母さんが怖いよ」

「大丈夫、私が守ってあげる」

私はそう言ってアザだらけの妹を抱きしめた。

私たち姉妹は母に虐待を受けていた。

父が死んで以来、母は精神的に病んでしまい、

自分が誰なのかすら理解できていないようだった。

そんなある日、学校から帰ると廊下に何かを引きずったような赤黒い跡。

と、ほんの一瞬、何かが視界の隅をよぎる。

赤い液体の滴る袋を引きずりながら、廊下の角を曲がっていく女。

あの青い花柄のワンピースは…母だ。間違いない。

袋の中身は…いやそんなはずはない。

赤黒い跡を追い掛けてみるとタンスの前で途切れていた。母の姿は見えない。

意を決してタンスを開くとそこには袋があった。

…恐る恐る袋を開けて愕然とした。

袋には夥しい数のぬいぐるみが詰まっているだけだった。

「そうなんです。私には妹なんていなかったんだ。そうなんですね?先生」

「はい、そうです。だが、あなたはまだ気づいていないことがある。」

私は混乱し、うつむいて青い花柄のワンピースのすそをぎゅっと握った。