母の実家の裏に住んでいる、遠い親戚にあたるおばさんの話だ。


根元さん(仮)は小学生の頃、家族で東京の八王子に移り住んだ事があった。

高い建物などまだほとんどなかった時代である。

根元さん一家が引っ越した家には、ちょっとした庭のようなものがあった。

その庭の向こうは、低い板塀で仕切られていて、隣は小さな空き地のようになっていた。

根元さんは引っ越してすぐ友達もできず、学校と家を行き来するだけの生活を送っていたそうだ。

ある日、縁側に座って小さな庭を眺めていると、隣家との仕切りから誰かがこっちを見ている事に気づいた。

坊主頭の少年が、板塀に手を掛け、頭を出して根元さんを見ていた。

「何してるの?」

少年に突然話しかけられて、根元さんがどうしたらいいのかわからず慌てていると、少年はにこにこしながら、

「何か話しをしよう」

と言ってきたそうだ。

それから根元さんと少年との塀ごしの会話が始まった。

母が庭の物干しに洗濯を干そうとすると、母の前にも少年は現れた。

父が縁側に立つと、父の前にも少年は顔を出したという。

元気の良い子だと、家族そろって少年の事を気に入ってしまったそうだ。

夕飯時に縁側にいると、

「良い臭いがするね、メシ何食うの?」

と少年が顔を出した。

だがいくつか気になる事があった。

少年がどこから来ているのかはまったくわからなかった。

さらに、近づくと頭を引っ込めていなくなってしまうし、

少年が現れる時間も夜の遅くまでいる時があると母が言っていたそうだ。

一度、少年の家族について母が尋ねた事があった。

すると少年の家族は、母親と兄が一人、

妹が二人いるという事がわかったのだが、父親については『戦争に行った』と話しているという。

素性は知らなくても、話し相手が欲しいときに縁側に出れば少年がいつも話し相手になってくれた。

落ち込んでいる時は励ましてくれたし、教師に褒められた話をすると、一緒に喜んでくれたりもした。

だが、実は父と母は少年の正体に気づいていたんだそうだ。

板塀は低く、大人なら向こう側が簡単に覗けるのだが、父親が塀の向こうを見て見たところ、

ちょうどいつも少年が立っている辺りに小さな塚のようなものがあったそうだ。

根元さん一家は三年東京に住んでいたそうだが、少年は変わらぬ姿で現れ続けたそうだ。

父が言うには、八王子の激しい空襲で死んだ子供が、死んだ事もわからないまま、

年の近い根元さんが越して来たので嬉しくなって現れたのではないかということだ。

その塚が今あるかどうかは知らないという。