250 師匠コピペ7 sage 2008/06/29(日) 12:36:57 ID:vtxXJwJU0


540 古い家   ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2008/06/29(日) 00:25:08 ID:9x5Yw4U+0
ただ僕と同じように、そこかしこに光から逃げるような影があるような気がしたの
か、師匠はむやみたらと明かりを四方八方に向けては「うぅ」と唸っている。
店の正面玄関にあたる戸の裏側(『醤』の字が書かれていた戸か?)には、やはり
頑丈そうなつっかえ棒が何重にもしてあるのが見えた。
こっちに全力で体当たりしてたら、と思うと僕はぞっとした。
その後も、二人で家の中の小部屋などを探索したが、なにも目立った成果はなかった。
つまり、『この世のものとは思えない呻き声が聞こえる』という噂にまつわるような何事も起きなかったし、何も見つからなかった。
「人の気配はまったくないですね」
僕の囁きに師匠は、「う~ん」と首を捻る。
なにかに合点がいかない様子だ。
確かにこんなところまで遠征して来て、不法侵入までしてなにもなかったでは納得がいかないのだろう。
そう思っていると、師匠が首を捻ったままポツリと呟いた。
「2階へはどうやって上るんだ」
ゾクッとした。
2階?
外から見えていた2階の格子戸。あの奥には部屋があるはずだ。
あそこへはどうやって上る?
この家には階段がないじゃないか。
見落としがあったのかも知れない。そう思ってもう一度家の中をぐるりと回る。
しかし、階段はおろか、その跡さえ見つからなかった。
「こういう造りの家だと、階段はどこにあるのが普通なんだ」
師匠の言葉に答える。
「たいていは店の間の端です。まあ台所の横にあったりもしますが」
「ないじゃないか。どこにも」


251 師匠コピペ8 sage 2008/06/29(日) 12:37:48 ID:vtxXJwJU0


541 古い家   ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2008/06/29(日) 00:28:10 ID:9x5Yw4U+0
おかしい。
縄梯子で出入りでもしているのかと思って天井を観察したが、そんな痕跡は見当たらなかった。
ひょっとして、家の外側から架け梯子などで出入りしていたのではないか。 
そう思いはじめた頃、僕の耳は魂の芯が冷えるようなものを捉えた。
   うううううう
…………
そんな、呻き声がどこからともなく聞こえた気がした。
思わず身を硬くする。
気のせいじゃない。その証拠が僕の目の前にある。
師匠が口唇に人差し指をあてて、険しい表情で姿勢を低くしているからだ。
静かに。
そう、僕に目で指示をしてから師匠はゆっくりとすり足で進み始めた。
嫌な汗がこめかみを伝う。
僕らがいた店の間から通りにわに入り、懐中電灯の丸い光がつくる埃の道を息を殺して進む。 
急に暗闇が深くなった気がした。室内には、単一の光源では届かない闇があるのだと、今更ながら思い知る。 
一瞬目を離した隙に、その闇の中へなにかが身を隠したような想像が沸き起こる。
    うううううう
…………
微かな呻き声に耳をそばだてながら、師匠が足を止めた。
最初に上った座敷の前だ。
ゆっくりと畳に足を乗せ、師匠は座敷に上り込んだ。
たわんだ畳に引っ張られるように骨だけの障子がカタリと音を立てた。
「おい」
という押し殺した声に引っ張り上げられて、僕も座敷に上る。


253 師匠コピペ9 sage 2008/06/29(日) 12:44:58 ID:vtxXJwJU0


542 古い家   ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2008/06/29(日) 00:31:15 ID:9x5Yw4U+0
師匠は部屋の隅の、押入れの跡に光を向ける。
取り外されたのか、襖もない。ただ部屋にぽっかりと開いた穴のような空間だった。
まだ呻き声は続いている。
しかも明らかに近くなったようだ。
師匠が押入れの床をモゾモゾと撫で回していたかと思うと、ズズズ……という木が
擦れるような音とともに、目に見えない空気の流れが顔に押し寄せてきた。
師匠が僕の方を振り返る。
そして押入れの床を明かりで照らす。光はある一点で吸い込まれるように消えている。
そこには隠し板の蓋を外された穴があった。大きさは人が優に入り込めるほどのもの。
師匠の身振りに近くへ寄った僕は、その穴の中を恐る恐る覗き込んだ。
そこには、地下へ伸びる木製の階段があった。
空気が吹き上がってくる。
    うううううう
…………
空洞を抜ける風の音。
これが唸り声の正体か。
ごくりと唾を飲み込む僕に、師匠が囁く。
目を爛々と輝かせて、「さあ、行こうか」と。


僕は思い出していた。
父方の祖父の家にある古い土蔵。その奥に地下へ伸びる隠された階段がある。 
その下には秘密の部屋があり、巨大な壷が置いてあった。子どものころ、父に連れられ
てその階段を降りる時の、あの、気づかないほどゆるやかに少しずつ自分が死んでいくような感覚。 
いたずらを叱られた僕は、父にその壷の中へ押し込められるのだ。