去年、母とランチをとった商店街が気に入り、
冷やかし程度に商店街の不動屋さんの物件チラシを見ていた。
すると、不動産屋さんのおじさんが、
良かったら中でどうぞとおっしゃったので、お言葉に甘えて店内へ。
冷やかし半分だったので、2LDKで7万前後(それなりに都心です)、
ペットも可能であればなおよしという無理難題をふっかけた。
すると、データベースを見ていたおじさんが
「あれ…?あ、ああ、ありましたよ、一軒!今すぐ見に行けますがどうですか?」
暇だったので承諾する私たち。

不動産屋からは3分の距離。
それなりに賑やかな商店街、駅からともに近い。
日当たりもいいという。いやがおうにも期待が高まる。

しかし建物の前に着くと、どうも嫌な予感がする。母に至っては鳥肌を立てている。
やっぱりやめましょうと声をかけるも、不動産屋はずんずん進んで行く。

部屋のドアの前についた。
中は見なくていいです、という私たちを無視して不動産屋はドアを開けた。
生臭い匂いがムッと流れ出る。三年は入居者がないという。

その部屋のウリを話しながら、不動産屋は雨戸を開ける。
墓場が見えた。私は不動産屋の進行方向の反対に進み、
風呂場がバランス釜だしなーと言いながら風呂の蓋を開けた。ドス黒い液体が溜まっていた。
へぇ、ふぅん、なかなか…適当な相槌をうちながら西の窓を開ける。
階段が見えるはずの風景には、電車が走っていた(駅と正反対)。
その後も、トイレに生首、天袋に生首、キッチンの収納に腕…いろいろ見えて、
私たちは顔を真っ青にしてその部屋を退却した。
 
残念ですが、この部屋はやめておきます。
そう告げた瞬間、不動産屋は舌打ちをして、私たち親子に塩を撒いて追い出した。
終わり。


ああ、一番怖いとこ言うのを忘れてた。

その翌週また母と同じ駅でランチをとったのだが、
その不動産屋が跡形もなくなくなっていて、喫茶店になっていた。
えっ…と思いながらその古びた喫茶店に入ると、
店主がこれまた古びたメニューを持ってきた。
恐る恐る聞いてみると、その駅には不動産屋はないという。
そして、その喫茶店には例の不動産屋を訪ねてやってくるお客が、たまにいるらしい。