907 本当にあった怖い名無し 2008/01/21(月) 00:57:16 ID:wohjQNUp0
どっかで見たことある・・・それもあるけど、分かっていながらも、袋からリアルに人が、しかも生
きた人が出てきた事にビビッて、俺は固まってた。
SさんがKさんに
「おい何で目を覚ました!」
「クスリ打てクスリ!」
「袋に戻せ!」
とか言ってるのが聞こえた。
Kさんはクスリは持って無いとか、何とか答えてた。その間も『袋』は暴れてた。暴れてたという
か、体を縛られてるらしく、激しく身をよじって、袋から出ようとしていた。
するとSさんが、袋の上から腹のあたりを、踏んづけるように蹴った。一瞬『袋』の動きが止まっ
たけど
「ウ~!」と、すごい唸り声を上げながら、また暴れ出した。
Sさんは腹のあたりを、構わず蹴り続けた。それでも『袋』は、暴れ続けた。やがてKさんも加わっ
て、二人で滅茶苦茶に蹴り始めた。パキって音が、2、3回立て続けにした。多分肋骨が折れた
んだと思う。
『袋』の動きが止まった。その時なぜか、男は頭を振って、俺に気が付いた。
それまですごい形相で、暴れていた男が、急に泣きそうな顔で、俺を見つめた。
Sさんが「袋に戻せ」と言うと、Kさんが男の肩のあたりを、足で抑えながら、
袋を引っ張って、男を中に戻した。
今でもその光景は、スローモーションの映像のまま、俺の記憶に残ってる。
男は袋に戻されるまで、ずっと俺を見てた。一生忘れられない。
908 本当にあった怖い名無し 2008/01/21(月) 00:57:44 ID:wohjQNUp0
Kさんが、袋の口をきつく縛るのを確認すると、Sさんは更に数回、袋を蹴った。
「これくらいかな。殺しちゃまずいからな」
Sさんはそう言って、俺を見た。
「お前、こいつの顔を見たか」
「いえ・・・突然だったんで、何が何だか」
そう答えるのが、精一杯だった。その時は本当に、どこかで見たような気がしたけど、
思い出せなかった。
SさんとKさんは、再び動かなくなった『袋』を担ぎ上げた。それまでと違うのは、真ん中に俺が
入ったこと。もう中身を知ってしまったので、一連托生だ。
それからその13号坑道ってやつを、延々歩いた。今までの広い通路とはうって変わって、幅が
3mも無いくらいの、狭い通路だった。
右手は常に壁なんだけど、左手は時々、下に下りる階段があった。
幅1mちょいくらいの階段で、ほんの数段下りたところに、扉がついてた。
何個目か分かんないけど、Sさんがある扉の前で止まれって言った。そこもまた『帝国陸軍』。
『帝国陸軍第126号井戸』って書いてあった
(128だったかも。偶数だった記憶があるけど忘れた)
それでSさんに言われるまま、中に入った。
中は結構広い部屋だった。小中学校の教室くらいはあったかな。その真ん中に、確かに井戸
があった。でも蓋が閉まってるの。重そうな鉄の蓋。端っこに鎖がついてて、それが天井の滑車
につながってた。滑車からぶら下がっている、もうひとつの鎖を引いて回すと、蓋についた鎖が
徐々に巻き取られて、蓋が開いてく仕掛けになってた。
909 本当にあった怖い名無し 2008/01/21(月) 00:58:23 ID:wohjQNUp0
オレは言われるままに、どんどん鎖を引っ張って、蓋を開けていった。完全に蓋が開いたとこ
で、二人が『袋』を抱え上げた。もう分かったよ。この地底深く、誰も来ない井戸に、投げ込んで
しまえば、二度と出てこないもんね。でもひとつだけ分からない事があった。なんで「生きたまま」
投げ込む必要があるの?
二人は袋を井戸に落とした。ドボーン!水の中に落ちる音が、するはずだった。でも聞こえて
きたのは、バシャッて音。この井戸、水が枯れてるんじゃないの?って音。SさんとKさんも、顔
を見合わせてた。
Sさんが俺の持っているマグライトを見て顎をしゃくってみせ、首を傾げて井戸を覗けってジェ
スチャーをした。マグライトで照らしてみたけど、最初はぼんやりとしか底まで光が届かなかっ
た。レンズを少し回して焦点を絞ると、小さいけど底まで光が届いた。光の輪の中には『袋』の一
部が照らし出されてる。やっぱり枯れてるみたいで、水はほとんど無い。
そこに手が現れた。真っ白い手。さらにつるっぱげで、真っ白な頭頂部。
あれ、さっきの『袋』の人、つるっぱげじゃ無かったよな。
ワケが分かんなくて、呆然と考えていたら、また頭が現れた。
え?2人?ますます頭が混乱して、ただ眺めてたら、その頭がすっと上を向いた。
目が無い。
空洞とかじゃなくて、鼻の穴みたいな小さい穴がついてるだけ。
理解不能な出来事に、俺たちは全員固まってた。しかも2人だけじゃ無さそうだ。奴らの周囲
でも、何かがうごめいている気配がする。何だあれ?人間なのか?なぜ井戸の中にいる?何
をしている?
910 本当にあった怖い名無し 2008/01/21(月) 00:58:52 ID:wohjQNUp0
その時、急に扉が開いて、人が入ってきた。俺は驚いてライトを落として、立ち上がってた。S
さんとKさんも。入ってきたのは、Nさんだった。Nさんは俺たちを見て、怪訝そうな顔をした。
「S、もう済んだのか」
Sさんは少しの間、呆然としていたけど、すぐに答えた。
「済みました」
Nさんは俺たちの様子を見て、俺たちが井戸の中身を見た事を悟ったみたいだった。
「見たのか、中を」
俺たちはうなずきもせず、言葉も発しなかったが、否定しないことが肯定になった。
「さっさと蓋閉めろ」
言われて俺は、慌てて鎖のところに行って、さっきとは反対側の鎖を引いて回した。少しずつ蓋
が閉まっていく。
「余計な事を考えるんじゃねえ。忘れろ」
そう言われた。確かにそうなんだけど、ぐるぐる考えた。殺しちゃまずいって、Sさんは言ってた。
Sさん自身も、なぜ殺しちゃだめなのか、知らなかったんだと思う。生きたまま落とした理由は?
生きたまま・・・・あの化け物のような奴らがいるところへ。考えたく無くなった。
俺たちは来た道を戻り、車で道に出た。今度はSさん、Kさんは、Nさんのベンツに乗っていった。
そしてそれが3人を見た最後になった。
911 本当にあった怖い名無し 2008/01/21(月) 00:59:15 ID:wohjQNUp0
俺は思い出していた。あのとき『袋』に入っていた男の顔を。
最近出所してきた、会長の3男だった。出来の悪い男というウワサだった。
ケチな仕事で下手を踏み、服役していたらしい。俺は2、3回しか
顔を合わせた事が無かったが、大した事無さそうなのに、
威張り散らしてヤな感じだったのを覚えてる。
だからといって、会長の息子を殺すのはアウトだよ、死体を隠したっていずれバレる。
それでも出来るだけバレないように、俺を使って運んだんだろうけど。
あの出来事から2週間くらいして、Nさんが居なくなった、お前も姿をくらませって、
Sさんから電話があった。バレたんだ。会長の息子を殺ったのを。
組から距離をおいていたのが幸いして、俺は逃げ延びる事ができた。
SさんやKさんがどうなったのかは知らない。あれから数年、
俺は人の多い土地を転々としている。これはあるネットカフェで書いた。
もうすぐネットカフェも、身分証を見せないと書き込めなくなるらしい。
これが最後のチャンスだ。
組の人たちがこれを知れば、どこから書いたのか、すぐに突き止めると思う。
だから俺はこの街には、二度と戻ってこない。
誰かあの井戸を突き止めて欲しい。なぜあの井戸に、暴力団なんかが鍵持って入れるのか。
そうしたら俺の追っ手は、皆捕まるかも知れない。
俺は逃げ延びたい。これからも逃げ続けるつもりだ。
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