一昨年の秋の話。
犬の散歩コースで古いアパートの前を通るのだが、そこの1室にカーテンが短くて中が少し見える部屋があった。

電気の明かりやテレビの音が漏れ、時には住人らしき人の足が忙しく行き来するのも見え、入居者の少ない寂しいこのアパートでは唯一生活感が感じられる部屋だった。

ある日いつものようにその部屋の前を通ったら、午後6時だというのに電気がついていない。

テレビの明かりだけが漏れているのがカーテン越しに分かるものの、妙な雰囲気だった。

電気消してテレビ鑑賞?と思いつつ、犬のマーキングが終わるのを待っていて、ふと目が留まった。

…足が浮いてる??

机や椅子といった座って足をプラプラできるような家具の影はない。明らかに足だけ浮いている。

不覚にも抜けた腰を起こしてダッシュで帰宅、半泣きの私から事情をなんとか察した家族が警察に通報。
死後1~2日。
あの部屋に住んでいた若い男性、遺書はなかったそう。
ご冥福をお祈りいたします。

短いカーテンの隙間から覗く垂れたつま先を、テレビの白い明かりがチラチラと照らしていた光景が忘れられない