俺が小学低学年の時、両親の離婚問題(裁判等)で、俺は夏休みの間、母方の田舎で爺ちゃん婆ちゃんと暮らすことになった。

ほんとド田舎で周りは田んぼと山。

まぁ当時ガキだった俺には、昆虫採集が出来て楽しかったが。

でも爺婆に

『あそこだけは行ってはいけん!』

と何度も言われた場所があった。

それは裏山の中腹にある祠(防空壕?)だった。


行ってはダメと言われれば、やっぱ行きたくなる。

ある日俺は、クワガタを捕りに行くと嘘をつき、その山に入った。


獣道を10分程登ると祠がある。

その祠の入り口は横幅2メートル縦1.5メートル程で、白い綱が横方向に垂れ掛かっていて、それに白い布が数枚掛けられていた。(力士の化粧回しぽい)

とりあえず、外から中を覗き込んだが、入ってすぐに数段の降りる階段があり、その先は少し広めの空間があるように見えた。

とりあえず、白い綱を股がり、中に入った。

入った瞬間に、夏なのに中はメチャ涼しい、てか寒いぐらいだった。

苔の生えた階段を降りると、外から見た通り、若干横幅が広がっていて、更に奥まで続いていた。

しかし、奥は真っ暗な上に、風の音が反響して、なんとも不気味で、昼間だったが、その時は怖くなり、すぐに引き返した。
その晩、爺婆の約束を破った後ろめたさがあったのか、夢にまで祠が出てきた。

明くる日、どうしても祠の事が気になり、懐中電灯を片手に、もう一度、祠へ出向いた。

祠手前で周囲に誰もいないことをよく確認し、素早く入った。

階段を降り、直ぐ様、懐中電灯をつけ、奥を照らした。

見たところ奥行きは10メートル程だろうか、、、もう少し前進しないとはっきり見えないが、何やら奥にも、入り口にあったのと同じような白い綱のようなものが見えた。

反響する風の音『ゴォー・・・』に合わせて、その綱が少し揺れているのが辛うじて見えた。


急に怖くなって、また引き返そうと思ったが、好奇心も旺盛だったので、ジリジリと前進した。

出来るだけ懐中電灯を握った右手を前に伸ばして。


2メートル程進むと、白い綱がはっきり見えた。

更にその奥には木の観音扉があった。

『ただの変わった神社かな?』と思い、懐中電灯でその観音扉を照らしてみた。

その観音扉、閉まっているんだが、障子みたいな感じで枠組みがあるんだが、障子紙自体はボロボロで中が丸見え。

何やらお供え物があったであろう食器類や、蝋燭立て、そして中央奥に変色して所々緑がかった丸い鏡があった。

なんかそこらの神社の境内と変わらなかったか、半分がっかり、半分安堵って感じで、引き返そうとしたとき、

『ゴォー・・・』

と風の反響音と共に

『ギィ・・・』

と軋む音がした。

振り返り懐中電灯を照らすと、観音扉が片方、ゆっくりと開きだし、

『パサッ』

と白い綱も片方だけが落ちた。

俺は全身に鳥肌がたち、ビビりすぎて、声は愚か、一歩も動けなかった。

その時、観音扉の中の鏡のなかに何やら動くものが見えた。

小さな小さな白く動くものが・・・

懐中電灯の灯りが反射してハッキリは見えないが、何かが鏡の中で動いている…

いや、よく見ると、鏡の中ではなく、鏡に写る俺の頭部、の後ろ…


つまり、俺の後ろに何かいるのが鏡に映っていた。


俺は膝はガクガク、身体中に悪寒が走り、振り返る事も出来ず、ただただ心の中で

『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、…』

と何度も言った。

その白い何かは、しばらく俺の背後で活発に動いていた。

はっきりとは見えないのだが、なぜか背後にピタリと寄り添うよういるのがわかった。

人影?のように見えた。

俺は鏡から目を反らすと、その瞬間にその白い人影?に襲われる気がして、目線から指先爪先まで微動たり出来なかった。

鏡越しに背後の人影は、激しく手?(腕)をメチャクチャな感じで振り回し、気でも触れたかのような感じで暴れているように見えた。

何分間、いや、ほんとに、時間の感覚が解らず、とりあえず『ごめんなさい、』と念じていたら、少しずつ、その白い人影は霧のように消えていった。

その瞬間俺は地面だけを見て、一目散に抜けかけた腰と、ガクブルな足で走って逃げた。

帰ってからも爺婆にはその事を告げなかった。(約束を破ったことで怒られるのが恐く)


結局、それ以来、祠へは行かず、夏休みが終わり、俺は母に育てられる事になり、母と二人で新たな町で生活することになった。
それから数年たち、俺が社会人になってから、爺が他界した。

もちろん葬式は田舎の爺宅で行われたのだが、爺の田舎では葬式の晩に、村の者が集まり、夜通し酒を飲み、明るく死者を送るしきたりがある。

俺も地元のオッサンらと酒を飲み、いろんな事を話しているとき、ふと祠について聞いてみた。

『爺に、何度も祠には近づくなって言われたけど、なんかあるんですか?』

みたいな感じで。

すると、それまで騒いでいたオッサン連中の顔色があからさまに変わった。

『防空壕だ・・・』

と一人のオッサンが言った。


しかし、べろんべろんに酔った地元の青年が

『あ、俺、あれの噂!ガキの頃聞いたことあるさ、昔、○○○゛○なオナゴさ、あそこに・・・』

すると、すぐ横にいたオッサンが

『何バカな事言うとる!変な話するでね!飲み過ぎだオメー!』

と、その若者を羽交い締めにして表へ連れ出した。

俺はすぐにピンときた、と言うか話が繋がった。


あの時、俺が振り向いていれば、今頃俺はここには存在しないだろう。

もちろん、その祠に入ったことは誰にも言ってない。