これは俺が高校2年生の頃に体験した話。
少し長いけど聞いて貰えると救われる。


俺は某県N市に住んでいて、その頃よくツレと二人で心霊スポットに凸して武勇伝を他のツレに話す、といったような事をやっていた。

周りの「よくそんなとこ二人で行けるな」とか「お前らすげぇわ」とか言われるのが気持ちよくて、新しく心霊スポットの情報を仕入れてはチャリで行ったり先輩の車で連れて行ってもらったり、終電で向かって朝になってから帰ってくるなんてのも珍しくなかった。


まあでも何か起こるわけでも無かったので周りも自分達も少しマンネリ気味だった。

そんな折にツレが(仮にYとする)嬉しそうな顔で俺の所に来て話はじめた。

こんな顔する時は決まって新しい心霊スポットの情報を仕入れて来たに決まってる。

Y 「おいwすげぇ情報仕入れたぞwww上物だ上物www」

俺「んな事言ってまた噂話程度の場所じゃねぇのか? この間の…」

そこでYが俺のはなしを遮って一言言った。

Y 「N団地」

俺は一瞬で顔が引きつった。
そこは数年前に主婦が飛び降り自殺をしたと噂されてた団地なんだが、1年前に受験ノイローゼになって高校生が自殺して更に今年女子中学生が自殺した、言うなれば正真正銘の曰く付きの団地だった。


今まで凸してきた場所はヤバいヤバい言われてても所詮噂レベルや有名なだけで、実際行ってみるとただボロいだけ、暗いだけの印象しか無く、だからこそ余裕で凸できたのだが、3人、少なくとも2人は実際に死んでいる場所はやけに生々しく俺は尻込みをしていた。

Y 「ビビってんだろwww」

俺を見透かした様にYはニヤニヤしながらこっちを見てた。


そこは本当に不気味だった。

俺は結局ヘタレ扱いされるのが悔しくてあの後Yに

「ばーか余裕だわ」

なんて言って凸が決行された。


今思うんだが雰囲気ってのは場所や建物のボロさじゃなく自分の感性が作るんだなとつくづく思う。

その団地は別にボロいわけでも真っ暗なわけでも無く普通の団地だった。

だけど俺はここで何十人も死んだと言われてもおかしくない位の不気味さを、雰囲気を感じていた。

Yの横顔を見ると多分同じ事を考えてるんじゃないかな…

そんな顔をしていた。

そんな俺の考えを察したんだろう。

Y 「なんだ思ったより普通じゃんかwちゃっちゃと済ましちまおうぜw」

なんて言いながら団地に入って行く。


自殺の現場は多分屋上なんだろうが流石に屋上は入れなかった。

仕方なく団地をウロウロしていると

Y 「お前好きな奴いるか? 俺はこの前のコンパで1人喰ったぞw」

なんて話をしていた。

Yが心霊スポットに凸するのは周りのツレに自慢する事も勿論なんだが、一番はコンパで女を話に食いつかせる為に凸している。

俺「どうせまた心霊スポットの話で釣ったんだろ不謹慎な奴だな…」

Y 「ばーかwそんなんヤレればい…」

Yは話をいきなり中断して顔色をみるみるうちに変えていく。

俺もそれに反応してYが見ている方を恐る恐る見る。





Y 「嘘ぴーんガチャピンムック!」

その日結局なにも起きる事はなかった。

Yと「大したことねぇな」とか言いながら帰ったのを良く覚えてる。


…Yの生きている姿を見たのはこの時が最後だった。


Yは次の日学校に来なかった。

まあスポット凸は夜中から明け方まで続くので凸の次の日休むのは良くある事だった。

Yは次の日もその次の日も来なかった。

携帯に電話してもメールしても返信が無い。

おかしいなと思いつつも次の日が土曜日で休みだったので土曜日に会いに行こう、その程度で考えていた。
ふと気がつくと屋上に立っていた。

団地の屋上は遮る物が殆ど無く強い風邪が「…落ちろ…落ちろ」と誘っているようだった。

足は一歩、また一歩と柵へと向かう。

越えにくくもなんともない、申し訳程度の柵を越えて団地の屋上の縁に立つ。

その風景は現実では無いような風景でいきなり見知らぬ外国かなんかにポイッと放り込まれた様だった。

足はそんな考えも無視して団地の縁から足をまた一歩前に踏み出す。

フワッと身体が浮いたかと思うと物凄い速さで地面が迫る。

何階以上から飛び降りれば意識を失うとか痛みが無いなんて話を聞いたが、あれは多分嘘だ。

飛び降りた人はこうやって最期まで自分が落ちて行く所を恐怖と絶望を噛みしめながら死んでいく。




グチャッ


俺はベッドから飛び起きた。


物凄い汗をかいていて喉もカラカラだった。

余りにリアルな夢に恐怖で身体が少し震えている。

まだ夜らしい。

少し落ち着きを取り戻しつつあった。


ドチャッ

自分の部屋の入り口の方から凄い音が聞こえた。

いつもなら何の音かわからずびっくりしていただろうが今は何となくわかる。

飛び降りた人の音だ。

見てはいけないと本能がいっているのになぜか自然に音のなった方をみてしまう。


不自然に…

首が身体の下敷きになっていて腕が一本曲がってはいけない方に曲がっている「人間」みたいな物がそこにあった。


ピク ピク

と動きながら首は下敷きになってるのに少しずつ動きながらこっちに這いずってくる。

目をつぶって消えてくれ消えてくれと何度も願う。

ペチャとかズルッとか湿った音をさせながら少しずつ少しずつ俺のいるベッドに近付いてくる。

俺は恐怖でピクリとも動けなかった。

ベッドの段差の死角に入ってその「人間みたいな物」は見えなくなった。

だけどベッドの下で湿った音がしているのでまだそこにいる。


バンッ


いきなりベッドの縁に手がつかみかかった。

もう俺は小便ちびりそうな位追い込まれてたと思う。

ベッドを掴んだ手に力が入るのがわかる。


ゆっくり
ゆっくり
顔が視界にはいる


丁度首を真横に傾げるような角度で顔が見える。

顔は半分血まみれだったけど半分はやたら綺麗だった。



その顔はYだった。


パニックで俺は意識を失った。


気がつくと朝だった。

夢だよなと何回も自分に言い聞かせた


でもあまりにリアルな記憶が多分夢じゃないって事を俺に理解させていた。

そんな事考えていた時だった。

母ちゃんが血相かえて俺の部屋に飛び込んできた。


その時Yが自殺したのを俺は知らされた。
俺は見てないけど知ってる。

Yは飛び降りたんだ。

Yは顔から落ちて顔半分つぶして腕も片方折れて苦しそうな顔しながら死んだ。

俺はお通夜の時も葬式の時も悲しくなかった。

ただただ怖かった。

棺からYがまたペチャとかズルッとか音出しながら俺の方に這いずって来そうで気が狂いそうだった。

そんな俺を母ちゃんも友達もYの両親も俺がYが死んでショックを受けてると思ったんだろう、凄く気にかけてくれた。


Yの両親は最後に

「Yと沢山遊んでくれてありがとう、Yの分までしっかり生きてくれ」

と言ってくれた。


ごめんなさい。

俺はもう怖くて怖くてYの両親の顔も見れなかった。

俺にはYの両親の顔が半分つぶれて不自然に曲がってる様にしか見えなかった。


絶対ふざけて行ってはいけない場所がある。

殆どの場所は何もおこらないし何も出ないだろう。


でも

行ってはいけない場所に行った後では手遅れなんだ。


今日も俺はYの成仏を願う。



毎晩のように現れるYを見ながら。