須藤さんから聞いた二つ目の話だ。

須藤さんが二十歳の誕生日の日、大学生の仲間5人で集まり、誕生会という名目で呑み会をしていたという。

酒も進み、話題は怪談話になった。

話がヒートアップしていく内に、仲間の一人が心霊スポットへ行こうと言い出した。

全員がノリで行こう行こうとなり、結局ほろ酔い気分の飲酒運転で榛名湖へ向かう事となったという。

真夜中の天神峠を須藤さんの運転で進むと、ヘッドライトの中、道路に何かが照らし出された。

須藤さんはギョっとして急ブレーキを踏んだ。

ヘッドライトに照らし出されたのは、道路のど真ん中で横倒しになっている地蔵だった。

「あぶねぇな、急ブレーキかけんなよ」

後部座席から友人が怪訝な顔を覗かせる。

「道路に地蔵が倒れてるんだよ」

須藤さんが言うと、友人は何かを思いついたように車から降りた。

何をするのかと思うと、友人は倒れた地蔵を転がし始めた。

酔いで気が大きくなっているのか、友人は地蔵をごろごろと転がし、そのまま道路傍のがけ下に地蔵を落としてしまった。

半笑いで戻ってきた友人は、

「何か怖い事がありますようにって願掛けしといたからな」

と言った。

「ほんとに何かあっても知らねぇぞ?」

須藤さんに咎められても、友人は悪びれた様子もなく手にしたビールをうまげに飲んだ。

結局、榛名湖では何もなく、須藤さん達は意気消沈気味に下山し、その日は須藤さんの家で全員で雑魚寝となった。

夜中、須藤さんは物音で目を覚ました。

どこからともなく、ゴロゴロと何かが転がる音が聞こえるのだ。

起き上がろうとした須藤さんだったが、体が言う事を聞かない。

叫ぼうとしても声もでない。

金縛りだ!と須藤さんは直感した。

いったい何が現れるのかと豆電球の明かりの中、目だけで部屋の中を見回していると、

須藤さんの寝ているベッドの反対側の壁から、何かが湧き出るように現れた。

それは良く見ると、赤い前掛けをつけた地蔵のように見えた。

それも、空中に横倒しで浮いているのだ。

宙に浮かぶ地蔵は空中を転がり始めた。

地蔵が転がると、地面を転がっているわけでもないのにごろごろと音を出していた。

さっきから聞こえていたゴロゴロというのは地蔵の転がる音だったのかと須藤さんが思っていると、

転がる地蔵は部屋のある場所で動きを止めた。

確かその辺りには、地蔵を転がり落とした友人が寝ていたはず…

と思った刹那、地蔵が浮力を失った。

「ギャアアァァ!!」

叫び声と同時に、体の自由が戻った。

起き上がりざまに電気を点けると、他の友人達も全員起き上がった。

なんとその場にいた全員が金縛りにかかっていたのだそうだ。

一際蒼白な顔をしていたのは、地蔵を落とした友人だった。

話を聞けば、地蔵が落ちてきて自分に当たる直前、ふっと地蔵は消えたのだという。

そんな体験をした事もあり、翌日、不安になった須藤さん達は昨夜地蔵を落とした場所へ行き、

地蔵の落ちたであろう崖下を探してみたが、地蔵らしきものは一切見当たらなかったという。