京都出身の伯父がまだ学生だった時分の話だという。

伯父は友人たちを自宅に招いて、怖い話で盛り上がっていた。

あそこは出るらしい、こんな話を聞いた、など、どれも人づてやうわさ話ばかりだった。

結局はそこに集まった者は誰一人としてそんな怪異に遭遇した事はなかったのだ。

そして話題は、幽霊とはどんな姿形をしているのか?というものになった。

仲間でノートを囲み、各々が思い描く幽霊像を絵にして描くということになり、

あぁだこうだと揉めた末に、ざんばら髪の浴衣を着た骸骨という絵になったという。

日も落ちて友人たちが帰り、その日両親が出かけでいなかった事もあり、家には伯父一人になった。

怖い話をさんざんした後で一人になるのは心細かったという伯父は、

家で飼っていた三匹の猫を居間に集めて、気を紛らわすために本を読むことにした。

しばらく本にのめりこんでいた伯父だったが、ふと、幽霊を書いたノートの事を思い出した。

ちゃぶ台にほうっておいたままだと君が悪い。

あのページは破いて捨ててしまおうと思い、目をちゃぶ台に向けると、

ちゃぶ台の上に猫が三匹乗っていた。

その三匹がそろって見ているのは、ほうったらかしにしてある幽霊のノート。

伯父は猫の視線にギョッとした。

三匹の猫の目が、そろってノートから天井に向けられる。

そして、部屋を一周するように猫たちは首を回していくと、そろって廊下のガラス障子に視線を留めた。

そのガラス障子のガラス部分に


『幽霊』がいた。


ざんばらの白髪を生やした、浴衣の髑髏。

そのがらんどうの目が、ガラス越しに伯父を見ていた。

伯父はその場で卒倒してしまったという。

夜遅くに帰った両親が居間の隅で倒れた伯父を起こすと、意味のわからない事を口走った後、再び卒倒してしまったのだそうだ。

伯父が意識を取り戻したのは翌朝の事だった。

伯父に覚えは無いが、例の幽霊を描いたノートのページは、知らぬ間に破り取られていたという。

幽霊なんて描くもんじゃない、伯父は泥酔状態でこの話をしてくれた。